第43話 天使と待ち合わせ

 俺と茜はバスセンターにあるシネコンに到着した。既にハカセと健司は来ていた。


「悪い、遅れた」


「いや、小島さんたちはまだ来てないから」


 ハカセが言う。そうか、助かった。


「蒼、久しぶりだな。茜ちゃんも久しぶり」


 健司が言う。そういえば、ハカセと健司はつながり無いよな。2人にお互いを紹介した。


「伊藤君は小島さんと仲がいいの?」


 ハカセが早速、健司に聞いている。


「まあな。俺は有紀と小学校が一緒だったんだ」


「そうか。幼馴染みか」


 ハカセは暗い顔になった。


「……俺、帰ろうかな」


 ハカセが言う。


「なんでだよ。大丈夫だから。健司と小島は今はたいして仲良くないから」


「そうなのか?」


「まあな。高校に入ってから再会したけどあまり話せてない」


 頭をかきながら話す健司の言葉を聞いてハカセが明るくなった。わかりやすすぎる。


「なるほどな。ハカセは俺のライバルか」


 健司が言った。


「ラ、ライバルって……。そんなんじゃないから」


 いや、もうバレてるから。


 ふと、隣を見ると茜がニヤニヤしている。


「お前、変なこと言うなよ」


「あー、私はお兄と違っていろいろ気を使えるから大丈夫」


 何、生意気言ってるんだ、全く。


 そこに、小島と前田さんが到着した。


「ごめん、遅れて」


「いや、まだ待ち合わせ時間少し過ぎただけだから」


「もう紗栄子の着替えに時間かかっちゃって」


「だって、有紀が着替えろって言うから」


「いや、さすがにあれは無いわ……」


 小島が言う。どんな服を着てたんだろう、気になる。今日の前田さんは以前にバスセンターで出会ったときと同じ服のようだ。相変わらず可愛い。


「こ、小島さん。おはよう」


 ハカセは緊張しているようだ。


「あ、おはよう。ハカセの私服初めて見た。結構いいじゃん」


「そ、そうかな。小島さんも似合ってる」


「え? そう? ありがと」


 ハカセ、頑張ってるな。


「よう、有紀。ほんと似合ってるな。今日は無理言ってすまなかった」


「健司、ほんとだよ。急すぎるんだから」


「すまん、すまん。今度は余裕持って誘うから」


「誘いに応じるとは限らないけどね」


「ハハ。そりゃそうだな」


 小島は健司の扱いに慣れてるな。さすが幼馴染み。


「中里君……」


「ん?」


 前田さんが俺に話しかけてきた。


「中里君は言わなくていいの?」


「え?」


「……有紀の服、褒めたりしなくていいの?」


「へ?」


 俺が小島の服を褒める必要があるのだろうか。

 前田さんは親友の小島の服を俺だけが褒めなかったことに不満があるのだろう。たぶん、そういうことだ。


「そうだな、小島、似合ってるぞ」


「中里に言われてもねぇ」


「はは、全くだ」


 俺は前田さんを見る。


「前田さんも似合ってるよ」


「ありがとう。でも、私には気を遣わなくていいよ」


「え?」


「大丈夫。分かってるから」


 何を分かってるんだろう。まさか俺が前田さんを好きってことがもう伝わっているのか?


「蒼、お前、そういうことか?」


 健司が俺に声を掛けてきた。


「何がだよ」


「好きな人が居る、って言ってたろ。有紀じゃ無いなら……」


 そう小声で言って前田さんを見る。


「まあな」


 俺は認めた。


「ふむ、そういうことなら協力するぜ。俺は朋美の時に迷惑掛けたしな」


「別にいいよ」


「遠慮するな、まかせておけ」


 うーむ、何か面倒なことをしでかさなければいいが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る