第42話 映画のメンバー

 俺とハカセ、そして小島と前田さんの4人で映画を見に行く前日の夜。小島から電話がかかってきた。


「なんだ? ドタキャンじゃないだろうな」


「いや、そうじゃないんだけどさ。明日、もう1人増えていい?」


「誰だ? 俺の知ってるやつか?」


「うん。健司」


 伊藤健司か。あいつ、小島とは小学校が同じだったよな。そして初恋の相手が小島だと言っていた。


「何で健司が?」


「実は今日、健司から明日は暇かって聞かれて、みんなで映画に行くって言っちゃたんだ。そしたら、俺も行きたいって言われて」


 あいつ、小島を誘おうとしてたのか。やはり、気持ちが残っているようだな。


「まあ、そういうことならいいんじゃないか」


「そっか。ありがとう! 明日楽しみにしてるね」


 小島との電話が終わり、おれは健司に電話した。


「よう、久しぶりだな」


「すまん。有紀から聞いたか?」


「聞いたよ。お前、まだ小島のことを……」


「まあな。できればもっと仲良くなりたいと思ってる。なかなかチャンスが無かったから勇気を出して明日会えないかと誘ったんだ」


「お前、急すぎるだろ」


「部活が急に休みになったんだから仕方ないだろ」


「全く。自分のチケットは自分で買えよ」


「分かってるよ」


 しかし、やっかいなことになったな。小島を狙う男が2人か。俺はどちらとも友人だし、どちらかに肩入れすることは出来ない。あ、片方は元友人だったな。


 結局は小島次第だ。俺には関係ない。俺は前田さんとの仲が深められればそれでいい。



◇◇◇



 そして、翌日の日曜日。俺は朝から出かける準備を始めた。


「あれ? お兄、出かけるの?」


 妹の茜が声を掛けてきた。


「ああ、ちょっとな」


「あ、紗栄子さんとデート?」


 こいつ、ほんとに勘が鋭い。


「なんでだよ。デートじゃねーよ。みんなで行くから」


「あー、みんななんだ。どこ行くの?」


「映画」


「ええー、いいなあ。私も行きたい!」


「中学生には分からない映画だから無理」


「え、もしかして大人の映画?」


「なんでだよ。そういうのに前田さんを連れて行けるか。まじめなやつだ」


 俺は誤解を解くためにスマホで映画『廻るドラムセット』のページを見せた。


「あ、これかー。私も気になってたからちょうどいいや」


「はあ?」


 こいつ、どうしても行く気か。早く準備してさっさと巻こう。


 だが前田さんに会うとなると何を着ていくか迷ってしまい時間がかかってしまった。ようやく準備が出来て行こうとすると、茜がギャルファッションの服を着て出てきた。


「なんだよ、お前もどこか行くのか?」


「紗栄子さんと有紀さんに一緒に行っていいか聞いたら、いいよって」


「はあ? お前なあ」


 小島はともかく前田さんにまで直接聞いたのかよ。


「ダメだ。お前はお留守番」


「ええー! せっかく、私が紗栄子さんとの関係進めてあげようって思ったのに」


「お前は朋美派だろ」


「私は中立だから。でも、今日だけは紗栄子派になる! それに紗栄子さんも楽しみにしてるって」


 これで茜が来なかったら前田さん、悲しむか。


「はぁ。連れて行くから絶対言うこと聞けよ」


「うん、お兄ありがと!」


 悪い予感しかしない。今日は映画が終わったらすぐ帰ろう。

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