第41話 ハカセに協力

 俺は風邪から復活し、それから何日かは平和に過ぎた。


 ある朝、ハカセが珍しく真剣な顔をして座っている。俺は気になって聞いてみた。


「おい、どうした。何か悩みがあるのか?」


 すると、ハカセが言う。


「まあな。例の話だ」


「例の話?」


「お前は分かってるだろ。俺の気持ちを」


 ああ、小島か。ハカセは小島のことが気になっているようだ。だが、関わりは多くない。たまに帰り道に一緒になる程度だ。あれではたいして仲は深められないだろう。


「お前、協力してくれるって言ってたよな」


 ハカセが言う。確かに言った。だから、彼氏が居ないかは探ってやった。


 これ以上の協力となるとなんだろうか。やはり、デートのお膳立てか。しかし、いきなり2人では難しそうだ。だが、何人かと一緒ならいいのかもしれない。前田さんも誘って俺も行くのであれば、俺にもメリットあるな。


「例えば、みんなで休日に出かけるとかはどうだ?」


 俺は提案してみた。


「なるほどな。で、どこにだ?」


「うーむ。定番なら映画、とか」


「映画か。それなら、これだな」


 ハカセがスマホで検索したものを見せてきた。


「『廻るドラムセット』? 知らないアニメだな」


「あまり知られてないが評価は高いぞ。テレビでやったやつがまとめられて映画になったんだ」


「ふーん」


 これを小島と前田さんが見たがるだろうか。


「だが結構難解でな。俺もテレビ版は見たんだが正直よく分からなかった」


 難解か。なるほど。それなら行けるかも。


「チケット4枚用意できるか?」


「全部俺持ちかよ」


「それぐらいできるだろ」


「分かったよ」


「だったら俺に任せておけ」



◇◇◇



 いつもの路面電車で私・前田紗栄子は有紀と中里君と帰っていた。そこで中里君が珍しくお誘いの提案をしてきた。


「あのさ、今度の日曜とか、2人は暇か?」


「え、暇だよ。いつも勉強しかしてないから」


 なんだろう。何かあるのかな。


「なになに? もしかしてデートに誘ってる?」


 有紀が言う。もしかしてそういうことなんだろうか。


「そんなんじゃない。実はハカセが見たい映画があってな。ただ、難解でハカセにもよくわからんらしい。それで2人にも見て欲しいんだ」


「へぇー、ハカセにも分からないんだ。難しそうだね。じゃあ、紗栄子、行ってきなよ」


「え?」


「私じゃ無理だもん。紗栄子なら分かるんじゃないかな」


 有紀が言うけど、中里君は私を誘いたいってことじゃないと思うんだよな。


「いや、小島も来てくれ。女子一人じゃ前田さんも居心地悪いだろ」


 やっぱり。中里君は有紀と行きたいんだ。でも、それではバレバレだから私も誘われたんだろう。


「じゃあ、紗栄子が行くなら行こうかな」


 よし。ここは中里君のためにも行ってみよう。


「私は行ってもいいよ。私にその映画が理解できるかは保証できないけど」


「じゃ、私も行く」


「そうか。ありがとな。チケットは全てハカセが用意してくれるから」


 あれ、中里君がチケット用意したんじゃないんだ。


「え、悪いよ」


「いや、ハカセの提案だから大丈夫だ」


 あ、ハカセ君が? そっか。ハカセ君ももしかして有紀狙いなのかな。すごいな、有紀。モテモテだ。


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