第38話 天使と雨

 6月が近くなった。しかし、まだ梅雨には入っていない。朝は晴れていた。にも関わらず、この日、帰ろうとすると外は雨だった。


「雨、降ってきたね。紗栄子、傘ある?」


 小島が聞く。


「うん、持ってきたはず」


「中里は?」


「折りたたみをいつも持ってるぞ」


 俺は常時折りたたみ傘を持っている。確かめてみると、やはりあった。助かったな。


「……あれ? 無いかも」


 前田さんが慌てている。傘が無いようだ。

 よし、これは相合い傘のチャンスだ!


「はぁ。仕方ない。私も折りたたみ傘で狭いけど一緒に帰ろう」


 そうだった。小島が居た。残念。


 と思ったが、小島も折りたたみ傘か。それで相合い傘なんてお互い濡れるんじゃないか。


 ――俺はいいことを思いついた。


「前田さん、俺の傘を使ってくれ」


 俺の折りたたみ傘を差し出す。


「え? 中里君はどうするの?」


「俺はハカセの傘に入れてもらって帰るよ」


「え、ダメだよ。濡れるよ?」


「いや、ハカセは普通の傘を持ってきたって朝言ってたんだ」


「そうなんだ」


「それで一緒に帰るよ。あいつには貸しもあるしな」


「あれ? そういえばハカセは?」


 小島が周りを見渡す。


「まだ来てないな。そのうち来るだろうから俺はここで待ってるよ」


「そっか。じゃあ、紗栄子、借りて行きなよ」


「う、うん。中里君、ありがとう」


「おう!」


 前田さんと小島、そしてそのハーレムたちは帰って行った。

 さて、俺はハカセを待つか。



 ――だが、待っても待ってもハカセは来ない。

 俺はハカセにメッセージを送ってみた。


 蒼『まだ帰らないのか?』


 博『もう帰ってるぞ』


 え?


 蒼『部活は?』


 博『今日は無い』


 しまった、情報処理部は毎日活動しているんじゃなかったな。

 くそ、傘が無いが仕方ない。停留所まで走ればあとは路面電車で帰れる。


 俺は全力で走った。しかし、相当濡れてしまった。

 そのまま路面電車に乗り込む。だが最悪なことに路面電車の中はエアコンが効いていて寒かった。

 これはまずいな。


◇◇◇


 結局、かなり寒いまま路面電車を降りる。路面電車には置き傘が有り、無料で借りられるが、急な雨だったのでもう一本も無かった。仕方なく、途中のコンビニで傘を買って家まで帰った。


「ただいま」


「お帰り。ってお兄、ずぶ濡れ!」


 茜がタオルをくれる。


「ああ。シャワー浴びてくる」


「うん。また顔がゾンビみたいになってるから早く入って」


「ゾンビはいつものことだ」


「最近はもうちょっとマシだったよ」


 はあ。またゾンビに逆戻りか。



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