第36話 ハカセと小島

 中間テストからしばらく経った食堂の帰り道。今日もいつもと同じように、左から三枝、俺、前田紗栄子、小島有紀で並んでいる。三枝が俺の隣にくるのは小島の隣には行きたくないからだろう。


「よう、中里」


「あれ? ハカセか」


 ハカセこと佐藤博が小島の右から顔を出した。あいつ、なんであっちサイドに居るんだ。三枝の隣の方が俺に近いだろ。間に小島と前田さんの2人挟んでるぞ。


「ハカセも今帰り?」


 小島が隣のハカセに話しかけた。


「あ、う、うん。じょ、情報処理部で」


 ぷっ。あいつ、テンパりすぎだろ。小島もなんだかんだで可愛い子だ。そんな子に話しかけられてハカセは緊張しているようだ。


「そうなんだ。情報処理部って何やってるの?」


「今はウェブサイト作ってる。プログラミングとかして」


「へぇー、頭いいんだね」


「そんなことないよ。中里や前田さんには負ける。当たり前だけど」


 あいつ、何へりくだってるんだ。いつも、俺には当たり強いくせに。


「私はプログラミングとかそんなに分からないから、すごいよ」


 前田さんがハカセに言う。俺も大して分からんな。


「紗栄子でもわかんないの? へぇー、ハカセってすごいんだね」


「い、いやー、そんなことないよ」


 あいつがデレデレしているの初めて見たな。小島に弱いのか。


 そういえば、前も食堂の状況聞いて「小島さんが大変だ」とか言ってなかったか?


 ――あいつ、まさか…。


◇◇◇


 翌日の朝、俺はハカセに聞いてみた。


「お前、昨日小島にデレデレしていたよな」


「はぁ、ち、違うし」


 この焦りよう、間違いないな。


「正直に言えよ。俺が助けてやってもいいぞ」


「ほ、ほんとか?」


 こいつ、分かりやすいな。


「じゃあ、一つ教えて欲しい」


 ハカセはこれまで見たことがない真剣な表情だ。


「なんだ?」


「小島さんには彼氏がいるのか?」


 確かに。まずはそこからだよな。よく考えたら俺は小島の交友関係はよく知らない。一つ言えるのはとても知り合いが多いということだ。委員長とも仲が良かったし、健司とも幼馴染み、朋美とも知り合いだ。小島が茜と出会ったときのことで分かったのは、初対面でもすぐ仲良くなるということ。人付き合いを苦にしないタイプだ。


 しかし、親しい男の気配というのは今まで無かったように思う。風邪で見舞いに行ったとき、お母さんが『家に滅多に男子は来ない』と言っていたな。『滅多に』というのが気になるところだが。今現在、小島に彼氏が居るかどうか、何とも言えない。


「少なくとも俺は知らないな」


「そ、そうか」


「ああ。だが、絶対に居ないとは言いきれないな。今度聞いてみるよ」


「頼む。恩に着るよ」


「1つ貸しな」


「わかった」


 ハカセに貸しを作っておけば何かと役に立つだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る