第35話 天使の解説
中間テストの結果を見た俺は教室に向かった。
前田さんと小島はもう来ていた。
「あ、中里」
小島がニヤニヤしている。クソッ!
「あー、前田さん。やっぱり、すごいね」
「そ、そうかな。なんか、ごめんね」
「いや、俺が情けないだけだから。それにしても、前田さん、テストの解説とかお願いできないかな」
「うん、今日の食堂でそうなると思う」
「あー、そうなんだ」
食堂ではテストの順位発表後にいつも解説をやっているそうだ。きっと、いい勉強になるだろうな。くそ、俺ももうちょっと早くハーレムに加わっておけば……。いや、ハーレムじゃ無くて勉強会だったな。
しかし、前田紗栄子の壁はやはり高かった。点数的にも全然縮まっていない。こうなったら、もっと勉強して期末テストで勝つしかない。
◇◇◇
放課後、食堂に行く。前田さんの周りにはいつもと同じく陰キャどもが集まった。
だが、今日は少し雰囲気が違う。試験の解説を皆が待っていた。
「前田さん、是非答案を見せて欲しい」
学年3位の三枝が言う。
「うん、いいよ」
前田さんが各教科の答案を出した。
「おー!」
全員が感嘆する。俺も少し見てみると……ほとんど間違い無いじゃないか! 「ミスったかも」って何だったんだよ!
「うーん、ここケアレスミスで満点逃しちゃった」
「いや、そこだけってすごいよ、前田さん」
三枝が言う。そうか、ほんとに1問ぐらいだったんだ。
一方の俺は、ケアレスミスは少なかったが、引っかけ問題に盛大に引っかかっていた。これはほとんどの人が間違えるだろうというずるい問題だが、前田さんはしっかり解いている。こういうところで大きな差が出来ていた。
「そういえば、三枝……」
俺の前に座っていた桐生雅史が珍しく三枝に言うことがあるようだ。
「ん? 何だよ」
「お前、4位だったな」
「なっ、だからなんだよ! ちょっとミスっただけだ」
「え、三枝。お前4位だったのか」
俺は1位と2位に気を取られて3位以下を見ていなかったので驚いた。
「中里、わざとらしいな、お前」
「いや、違う。ほんとに見ていなかったんだ」
「3位以下は眼中に無いって?」
「そういうことじゃない。俺は今回、前田さんに勝てるかなって思ってたから1位と2位しか見てなかった」
「はあ? お前が前田さんに勝とうなんて百年早いんだよ」
三枝が言う。
「うん、それは俺もそう思う」
味方のはずの桐生まで同調した。
「なんだと! 次の期末では俺が勝つ!」
「無理だな」「無理無理」
陰キャ連中が全員、口をそろえて否定を始めた。
「そ、そんなことないよ。テストなんてどうなるかは問題運次第なところもあるし」
前田さんだけがフォローしてくれた。
「だよね! 俺の1位もありえるよね?」
「うん、あるある!」
あれ? よく考えたら当事者の前田さんが俺を応援してるの、おかしくないか?
――きっと、俺が落ち込まないように言ってくれてるのだ。
「はぁ。前田さん、ありがとう。ほんとに天使だ」
「え!?」
「中里、お前……」
「あ、なんでもない、なんでもない」
しまった、天使と呼ばれているのは本人には内緒だった。
いかん、動揺してしまった。
「じゃ、じゃあ、前田さん。この問題を教えて欲しい」
「うん、いいよ。みんなも聞く?」
俺が間違えた問題を前田さんに解説してもらってお茶を濁した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます