第34話 中間テスト

 中間テストが始まり、俺はこれまで必死に勉強した手応えを感じていた。


 そして、最終日。全てのテストが終了した。俺はかなりいい感じで終えることができた。だが、前田紗栄子はどうだろうか。前田さんは小島と何か話しているようだ。俺はテストの感触を聞いてみることにした。


「前田さん、どうだった?」


「あ、中里君。うーん、私、ミスったかも」


「え? そうなのか?」


 これは……ついに前田紗栄子に勝てるのか。


「中里、人のミスを聞いて笑顔になるのはどうなのかな」


 小島が俺をにらむ。


「いや、悪い。もしかしたら勝てるかも、って思ったらつい」


「へぇー、じゃあ中里は良かったんだ」


「まあな。これまで以上に勉強したから」


「紗栄子、やばいかもよ」


「私は別に順位にこだわってないから」


 前田さんが言う。やはり、そうなのか。


「じゃあ、もし俺が1位だったらさ……」


「ん? 1位だったら、何?」


 小島がニヤニヤしながら言う。


「い、1位だったら……」


 1位だったら何をお願いするのか。付き合ってくれ、か? 俺を全く恋愛対象とみていない前田さんになんという迷惑なお願いだ。これじゃ、前田さんに群がる陰キャたちと何も変わらない。まだ、俺はその段階に全然達していないことは間違いなかった。じゃあ、何をお願いすればいい? 


 ……だめだ、何も思いつかない。俺は無理矢理絞り出した。


「もし1位だったら……褒めてくれ」


「は?」


 小島があきれている。


「え、いいよ。もちろんだよ! 中里君!」


 前田さんが俺を見て言う。しまった……アホなお願いをしてしまった。


「そ、そうか……。じゃあ、結果が楽しみだな。ハハハ」


 笑ってごまかした。


「はぁ。ほんとにへたれねえ。まあ、誠実ではあるか」


 小島が小さい声で言っていた。



◇◇◇



 そして、いよいよ今日は中間テストの順位発表だ。これまで各教科の結果は返ってきていたが、前田さんとは結果を見せあわず、今日まで待った。試験直後の前田さんの話から行くとあまりいい出来ではなかったらしい。そして、俺はこれまでにないぐらいの手応えを感じていた。


 ついに俺が学年一位になるときが来そうだ。だが、俺は一位になったら前田さんに「褒めて欲しい」などとというお願いをしてしまった。うーむ、褒めてもらうというのは具体的にはどうするんだろう。その場で褒めてもらって終わり、かね。できれば、もうちょっと、ご褒美的なものがあれば……。


 そんなことを考えていると、いつの間にか校内に入り、順位表の掲示場所まで近づいていた。やはり人だかりだ。――ん? 珍しく伊藤健司がいる。


「健司、お前も順位を見に来たのか?」


「まあな。お前が順位を気にしているようだったから」


「俺の順位を見に来たのかよ」


「あぁ。おめでとう、蒼」


「あ、ありがとう」


 マ、マジか。自分で見る前に健司の言葉で結果を知ってしまうとは。俺はあわてて人混みをかき分け、順位表の前まで行こうとする。ようやく、1位か。と思うと、顔の笑いを止められない。


 ――そして、順位表を見た。


「ふぅ、長い戦いだったな。…ん?」





1位 前田紗栄子

2位 中里蒼


「――――いつもと同じじゃねえか!」


 俺が大声を上げたので周りがちょっと引いていた。


「あ、すまん」


 俺は人混みを抜けて健司を探す。


「健司、なにがおめでとうだ。2位だったぞ」


「え? 2位おめでとうだけど」


「2位はめでたくないんだよ! 俺は1位を目指してるんだ」


「あ、そうなのか。いや、2位なんてすごいなあって思って」


「全く。俺には1位の時以外、おめでとうは言うな」


「わかったよ。そう怒るな」


 俺は腹を立てて教室に向かった。


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