第33話 小島に説明

 その夜。俺は小島に電話を掛けた。


「今日のことを少し説明させてくれ」


「何のこと?」


「朋美に握られた弱みの話だ」


「あ、それ。別にいいけど」


 小島は関心無さそうに言う。


「いや、前田さんにも関係するから」


「そうなの?」


「うん。朋美が食堂の勉強会に来ると言い出したんだ」


「え? そこまで知ってるんだ」


「たぶん茜から聞いたんだろう」


「あー、茜ちゃんか。朋美を慕ってるんだっけ」


「ああ。ギャルの師匠だからな」


 茜は朋美の味方だ。前田さんのことも気に入ってはいるようだが、どちらかを選べと言われたら朋美を選ぶだろう。


「食堂ね。来てもらっちゃまずいの?」


 小島が言う。


「そりゃ、まずいだろ」


「なんで?」


「俺の様子を見たら、俺が前田さんを好きなことが朋美にバレてしまう」


「バレちゃダメなの?」


「そりゃそうだろ。もしバレたら、前田さんに何か仕掛けてくるかもしれないし。俺がボディガードをしにくいように妨害してくるかもしれない」


「なるほど。それはまずいね」


「ああ。だから仕方なく勉強会を受け入れた。その代わり、食堂には来ないように釘を刺しておいた」


「そっか。中里の事情は理解したよ。紗栄子には聞かれてもごまかしておくね」


「すまん」


「それにしても、中里。あんた、紗栄子に脈無いね」


「え? そうか?」


 前田さんともよく話せるようにはなって、多少は仲良くなったと思っていたが、小島に断言されるとへこむ。


「だって、紗栄子はあんたと朋美の話、完全に他人事じゃん」


「まあな。でも、それは前もそうだっただろ」


「うん。進展無し。さらに言えば、あんたが朋美と復縁しないのをがっかりしてた感じだった」


「うぐっ……。そうだったよなあ、やっぱり」


 『ざまぁ』からの『復縁』という滅多に無い展開が現実とならず、前田さんはがっかりしたみたいだった。それは俺が朋美と付き合っても前田さんにとって何の問題もないということだ。


「このままじゃ、望み無いね」


 小島が宣告する。


「いや、俺にはまだ望みがある。中間テストだ。これで勝って1位になれば、前田さんも『中里君、すごい!』ってなるだろ」


「そうなるって思ってるの?」


「もちろん。ていうか、これしかない。俺にはやはり勉強しか残っていないんだ。というわけで勉強するから、じゃあな」


「そっちから電話かけといてひどいやつ。ま、せいぜい頑張って」


 電話を切って、俺は勉強に集中した。

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