第32話 朋美との噂

 翌日、朝。もうすぐHRが始まるという時間に伊藤健司が俺の教室に来た。


「何の用だ?」


「聞いたぞ。朋美と家で勉強会したんだって?」


「はぁ? ――何で知ってるんだよ」


「朋美が朝からみんなにしゃべってるぞ」


「……あいつ」


 どういうつもりだ。復縁したいから外堀から埋めるつもりか。


「そんなんじゃねえから。あいつが勝手に――」


「あ、もう時間だ。じゃあな」


「おい!」


 健司は俺の説明も聞かずに帰って行った。


◇◇◇


 昼休みになった。それまでに俺と朋美の噂は結構広がったらしい。昔は有名カップルで、それが破局したときも大騒ぎになったから、それを知っているやつらからしたら新たな展開と面白がっているのだろう。


 お昼を食べ終えた頃、前田さんと小島が俺の席に来た。


「中里君、ちょっと話があるんだけどいいかな」


 前田さんが俺に言ってきた。俺と朋美の噂を聞いてしまったのだろうか。俺は前田さんのボディガードだ。行動を共にすることも多い。もしかしたら、俺の好意がうっすらとは伝わっているかもしれない。にも関わらず、朋美と勉強会をしたと前田さんが知ったら……。きっと怒るよな。


 ここまでいい感じで来てたのに、朋美の策略に乗ってしまったばかりに。クソッ。


 俺に話があるという前田さんと小島は俺を連れて人気の無いところに歩いて行く。この方向は……やはり体育館裏。ここにはいい思い出が無い。


 体育館裏に着くと前田さんが俺に言った。


「あのね、中里君、噂を聞いたんだけど……」


 まずい、やはり朋美のことか。


「元カノさんと2人で勉強会したってほんと?」


 はぁ。やっぱりか。なんとか言い訳するしか無い。


「いや、それはそうなんだけど、これには訳があって――」


「やっぱり、ほんとなんだ」


 前田さんが言う。まずい。朋美とは何も無いのに。


「中里君は以前、元カノさんに『ざまぁ』してたよね?」


「え?」


「『ざまぁ』したのに『復縁』って…………なかなか無い展開だね!」


 あれ? 怒っている感じじゃ無い。むしろ感心したように俺を見ている。


「さすが、中里君だな、って思って。小説で恋愛を勉強してる私でもこんな展開予想できなかったよ」


 なにが『さすが』なんだか……。


「これからどうなるんだろうね~」


 前田さんが小島を見て言った。


「もう、紗栄子。中里は恋愛リアリティショーじゃ無いのよ」


 小島があきれている。


「え? でもすごい展開だよ、有紀。私、ほんとに復縁するのか気になっちゃって」


 前田さんは俺と朋美の思わぬ展開にテンションが上がっているようだった。何か瞳が輝いてるような気がする。

 盛り上がっているところ申し訳ないが、誤解は解いておこう。


「いや、違うんだよ。朋美が無理矢理、俺に教えろって来ただけなんだ」


「へぇー、でも中里はそれを受け入れたんだ」


 小島が不審そうに言う。


「それは、あいつが食堂……あっ」


 朋美が食堂に来ると言うからそれを止めるために、とは言えない。もし、それを言うと前田さんは「え、来ていいよ」と絶対言うだろう。そうなると、俺の好きな人が前田さんだと朋美にバレてしまう。


「……いや、朋美に弱みを握られてて、受け入れざるをえなかったんだ」


「ふーん」


 小島の目が鋭い。こいつにはあとで説明しておこう。


「だから、復縁とか無いから」


「そうなんだ、復縁じゃないんだ……」


「無いよ、無い無い。絶対無いから」


 俺はなんとか前田さんに信じてもらおうと必死に否定した。

 前田さんは信じたようだったが、だんだんテンションが低くなっているようだった。

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