第31話 朋美襲来

「ただいま」


 今日は桐生に勉強を教えたり健司と話したりして家に帰るのが少し遅くなってしまった。


「お兄、お帰り! 朋美さん来てるよ」


 妹の茜の言葉に耳を疑う。


「は? なんでだよ」


 別れてから佐々木朋美は一度も俺の家に来たことは無かった。


「帰ってもらえ」


「なんでよ。私に会いに来てるんだからいいでしょ」


「……」


 朋美は茜のギャルの師匠だ。茜に会いに来ていると言われると何も言えなくなる。


「蒼、お邪魔してます」


 朋美が茜の部屋から顔を出した。やはり棒付きキャンディーをくわえている。


「……来るときは俺にも連絡しておいてくれ。そうしたら家に帰ってこないから」


「連絡先ブロックしたのは蒼でしょ」


 そうだった。振られたときにブロックしたんだった。


「うるせーな。茜の部屋から出てくんな」


 俺は捨て台詞を吐いて、自分の部屋に入った。

 だいたい、今はテスト前だろうに、あいつはなんでここに来てるんだ。


◇◇◇


 しばらくするとドアをノックする音がする。茜だろうか。いや、茜はノックはしない。


「誰だ?」


「私」


 やはり朋美か。ドアを開けると珍しく棒付きキャンディーをくわえていない。不安だ。


「茜の部屋から出てくるなと言ったはずだが」


「いいでしょ。蒼、私ピンチなの」


「どうした? 先輩に振られたか?」


「もう振られたわよ! 知ってるでしょ。意地悪なんだから」


 朋美が騒ぎ出す。茜に聞こえたら面倒になりそうだ。仕方なく朋美を部屋に入れた。


「ありがと。この部屋も変わってないね」


「用が済んだらすぐに出て行けよ。で、何がピンチなんだ?」


「……中間テスト」


 はぁ。朋美はいつもそうだった。成績は良くない。赤点ギリギリだ。あの頃は俺も大して良くなかったが、朋美よりは良かったのでテスト前にはいつも教えていた。そのときによく家に来ていたのだ。


「だからといって俺にしてやれることは何も無いぞ」


「なんでよ。学年2位なんでしょ。勉強教えてよ」


「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」


「私のおかげでしょ」


「まあそうだな。って、お前に振られたから俺には勉強しかなかったんだぞ。わかってるのか」


「だから……ごめんって」


 朋美は涙目になっていた。こいつのこういう顔に俺はいつも弱かった。くそっ。


「それに、茜ちゃんから聞いた。いつも食堂でいろんな人に教えてるんでしょ?」


「……あいつ、ぺらぺらと」


「だったら私に教えてもいいじゃない」


「なんでだよ」


「あ、じゃあ私も食堂行こうかな」


「残念だったな。試験前の期間はやってないんだ」


「そうなんだ。じゃあ試験終わってから行くね」


 それはまずい。いろいろとまずい。


「……お前、それはやめろ」


「どうして? 何か問題あるの?」


 くそっ。茜のやつが入れ知恵したな。


「分かったよ。今日だけだからな。その代わり、食堂には来るなよ」


「うん、わかった」


 俺は仕方なく、朋美に勉強を教えることになった。

 勉強を始めると朋美は棒付きキャンディーをくわえだす。


 結局1時間ほど、赤点を回避できるように教えてやった。


「これでなんとなりそう。すごいね、蒼。さすが学年2位。あの頃より成長したね」


「お前なあ。もう、さっさと帰れ」


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