第30話 健司に説明

「で、お前はどうなんだ?」


 伊藤健司が俺に聞いてくる。

 こいつ、俺が前田紗栄子のことを好きになっていることまで知っているのか。


「な、何がだよ……」


「だから、有紀のことだよ」


「は?」


 小島のことってなんだ?


「有紀がお前の電話番号を俺に聞いてきたってことはそういうことだろ?」


 小島のことが好きだった健司は俺と小島の関係を疑っているのか。

 何も知らないからそう思うのも無理は無い。


「違う違う、前田さんのことで話があっただけだ」


「前田さん? 『陰キャの天使』の前田紗栄子か」


「そうだ。俺と小島は協力して前田さんを陰キャから守っている」


「あ、例のボランティアってやつか」


「そうだ。だから俺と小島は同じ仕事をしている同僚みたいなもんだ」


 同僚、だよな。上司と部下ではない、と思いたい。


「ふーん、よくわからんが面倒なことに手を出したな」


「まあな。これも学年1位になるためだ」


「学年1位? あっ、お前確か2位か3位だったっけ?」


「……2位だよ。まったく、軽く言ってくれるな」


 朋美に振られた俺には勉強しか無かった。だから学年2位は誇りでもある。健司にはその思いは分からないだろう。


「お前、朋美はどうするんだ?」


 健司が聞いてきた。

 健司は朋美がいる陽キャグループにいる。朋美の味方なのは間違いない。


「朋美? ああ、よりを戻そうと言われたよ」


「らしいな。朋美から聞いたぞ」


「そうなのか。じゃあ、断ったのも知ってるだろ」


「ああ。だが、朋美があきらめていないのも知ってるぞ」


「……そうだよな。困ったものだ」


「別に他に好きな人も居ないんだろ。朋美も反省してるし、よりを戻したらどうだ」


「無い無い。第一、俺には好きな人が居る」


 そうだ。俺には大切な人ができた。


「え? そうなのか? 誰だ。有紀か?」


「だから違うって言ってるだろ、安心しろ」


「じゃあ、誰だ?」


「教えない。だが、そのうちわかるよ」


 食堂でも派手にやってるし、健司にはそのうちばれるだろう。


「ふーん、そうか。まあ、またギャルだろうけど、分かるときを楽しみにしてるよ」


 俺のギャル好きイメージはどうしても無くせないようだ。


「それにしてもお前、顔色良くなってきたよな」


「そ、そうか?」


「ああ、前はゾンビみたいだったからな。これも好きな人が出来たからだろう。いいことだ」


 俺も少しは人間に戻れたらしい。

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