第29話 陰キャ男子と健司

 中間テストまであと3日。いよいよ大詰めだ。前田さんは今日も小島と勉強会をするらしく、すぐに帰って行った。俺も帰ろうとしたら、呼び止められた。


「中里君、いいかな」


 振り返ると見た顔の陰キャ男子だ。確か、食堂で隣に座ったことがあるな。


「申し訳ないんだけど、これ、教えてもらいたくて」


 食堂の前田紗栄子勉強会が無くなって俺に聞きに来たのか。こいつはほんとに真面目だな。


「いいけどな、俺、お前の名前も知らないぞ」


「あ、そういえばそうだね。僕は3組の桐生雅史きりゅうまさし。中里君とはいつも食堂で会ってるよ」


「それは覚えてる。……お前も前田さん狙いなのか?」


 こいつはわざわざ俺に勉強を教わろうとするぐらいだから本当にただ勉強しようとしているやつだろうと思うが、一応聞いておく。


「まあ、そうだね」


 ……他の奴らと変わらなかったか。


「僕は女子と全然話せないんだけど前田さんは話してくれるんだ。しかも、学年一位だし、可愛いし。ほんと、天使の名は伊達じゃないよ」


「それはわかるけどな~。前田さん、大変そうだぞ」


「僕もそう思う。だから、僕は中里君の味方だ」


「そ、そうか」


 あの場に俺の味方が居るとは思わなかった。


「僕も他の人を教えて前田さんを助けたいんだけど、そこまで頭良くないし、勇気も無くてね」


「まあ、それは仕方ない。じゃあ、これからは前田さんだけじゃなく俺にも直接質問してこいよ」


「わかった。でも、前田さんとも話したくて……」


 はぁ。真面目だけど、天使の虜になってしまっているのは同じか。


「じゃあ、最小限にしろよ」


「うん、わかった。でも、勉強頑張りたいのは嘘じゃないんだ。だから、この問題――」


「わかったよ。教えてやる」


「ありがとう」


 桐生は悪いやつでは無さそうだし、俺の味方と言われると悪い気はしない。俺は丁寧に問題の解き方を教えた。桐生は満足して帰って行った。



 さて、俺も帰るか。教室を出ると、別の見知った顔が居た。


「なんだ、蒼。今頃帰りか」


 今度は元友人の伊藤健司だ。


「まあな。お前も遅いな」


「ちょっと寝てたらこんな時間だ」


「お前なあ、ちゃんと勉強しないと知らんぞ」


 俺たちは久しぶりに一緒に校門まで歩いた。

 健司と話すのも久しぶりだ。そう思うと、俺はボディガードを辞めようとしたときのことをふと思い出した。


「そういえば、お前、俺の電話番号を小島に教えただろ」


「あぁ。有紀があのとき、しつこくてな。すまん、迷惑だったか?」


「……いや、助かったよ」


 俺がボディガードを辞めようとしたとき、小島が健司から電話番号を聞き出して俺に電話をくれた。そのおかげでボディガードを辞めずにすんだ。


「そうか。さすが有紀だな」


 こいつ、小島のことをよく知っているようだな。


「そういえば、お前と小島はどういう関係なんだ? 幼馴染みって小島は言っていたが」


「まあそんなところだ。小学校は同じだが、俺が引っ越したんで中学校は離れていた。高校になって再会したんだ」


「へぇー、小学校の時は仲良かったのか」


「まあな。正直言えばそのころの俺は有紀に惚れてた」


「え?」


 そんな関係だったのか。


「初恋ってやつだな。だが、ガキの頃の話だ。別に告白なんかはしてないぞ。一方的な片思いだ。引っ越しで自然消滅した」


「そうか……」


「なので、今でも有紀に頼まれると嫌とは言えないんだ」


「なるほどな」


「有紀には内緒だぞ」


「分かってる」


 健司にもいろいろな思いがありそうだ。



――――――――

※長くなったので続きを今日中に更新します。

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