第26話 天使とカフェ

 俺は知らなかったが、バスセンター2階の奥に進んでいくと有名菓子店が経営するセルフサービスのカフェがある。小島はよく来ているようで、さっさと茜を連れて店内に入り注文していた。俺は前田さんと後ろからついていき、同じようにケーキセットを注文する。


 ケーキとコーヒーの載ったトレーを持って、先に入った小島と茜を探すと、横に並んで座っていた。ということは対面に俺と前田さんが横並びか。


 俺は席について前田さんに言った。


「すまんな、妹が迷惑かけて」


「え? なんで? 全然迷惑じゃないよ」


「それならいいけど」


「妹さんとよく出かけるの?」


「たまにだよ。今日は暇だからと無理矢理連れてこられた」


「そうなんだ」


 俺が前田さんと会話していると、茜がニヤニヤしながら見ているのに気がついた。


「なんだよ」


「いや、お兄のそんな顔、久々に見たなあって」


「お前、この間も同じこと言ってなかったか?」


「あ-、連休初日の夕方だったっけ。誰かとメッセしてニヤけてたよね? もしかして紗栄子さん?」


 茜が前田さんに聞く。


「え? 連休初日の夕方? ……私かも」


「お前……あとで覚えてろよ」


 俺は茜をにらんだ。こいつ、妙に勘がいいんだよな。


「へぇー。何のやりとりしてたの?」


 小島が俺に聞いてくる。


「いや、前田さんは連休中ずっと勉強してるのかって聞いただけだ」


「うん。それだけだよ。だから、有紀と遊びに行く日もあるよって」


「あ、誘おうとしてたんだ」


 茜が俺に言う。


「ちげーよ。前田さんは毎日ずっと勉強してるのは分かってるんだから」


「毎日ずっと?」


 茜が驚く。


「うん。今日以外はずっとしてたよ」


「へぇー、お兄と同じだ」


「え、そうなの?」


 前田さんは俺を見た。


「まあな。何しろ打倒・前田紗栄子で俺は頑張ってるんだから」


「あっ、もしかして学年1位って」


 茜がつぶやく。


「うん、紗栄子だよ」


 小島が茜に言った。


「なるほど、なるほど」


 茜はふむふむと頷いている。


「なーに、わかったような顔してるんだよ」


「いや全部繋がったんで。そういうことか~」


 マジでこいつは……。


「ほんと、茜ちゃんは面白い子だねえ。連絡先交換しておかない?」


 小島が茜に言う。


「あ、はい。是非! 紗栄子さんも!」


 3人は連絡先を交換しだした。

 全く、面倒なことになった。


「で、有紀さんはどういう役割なんですか?」


 ケーキを食べながら茜が聞く。


「私? マネージャーかな。基本、私に連絡してくれればいいから」


「ああ、そういうことですね。分かりました」


 何が分かったんだか……。まったく、何の連絡の必要があるんだよ。



 俺たちはケーキを食べ終わり、コーヒーも飲み終わった。


「今日はお二人に会えてほんとに楽しかったです」


 茜が言う。


「そうだね、私も楽しかったよ」


「うん、私も」


 前田さんがそう言うと、茜が前田さんをまじまじと見はじめた。


「な、何?」


「それにしても紗栄子さん。やっぱり清楚ですねえ」


「え?」


「もう許さん。茜、帰るぞ」


 俺は席を立って、茜の手を引っ張った。


「ええー! ごめんごめんってば!」


「だめだ。じゃあ、俺たちは先に帰ってるから」


 それだけ言って、俺たちは店を出た。


◇◇◇


「お前なあ」


 路面電車が来るのを待つ間、茜をにらむ。


「ごめんごめん。でも、2人ともすごくいい人だね! 紗栄子さん、かわいい!」


「……まあな」


 あの2人を褒められると茜を怒れなくなる。


「あー、久しぶりに楽しかった。これから面白くなりそう」


「……マジであの2人に変なこと言うなよ。マジだからな」


「わかってるって。あっ、でも朋美さんは脈なしってことか-。ざーんねん」


「うるせーよ、全く」


 俺たちは路面電車に乗り込んで帰った。今日は本当に疲れた。

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