第25話 くまモン村

 私、前田紗栄子は小島有紀とバスセンターで洋服を見て回っていた。


「疲れたあ」


「まだまだ。全然決まってないんだから。行くよ」


 有紀は元気だ。バスケ部だし体力は私よりも全然ある。

 一方の私はもうクタクタだった。さっきから何度も服を着替えて、それを有紀が評価していく。

 いろいろ見て回っているのに私の買う服は全然決まらない。


「うーん、結局はガーリー系か。紗栄子に大人っぽい服はかえって変だよね」


 有紀が今持ってきた服はどちらかといえばかわいい感じだ。これがガーリー系というやつだろうか。

 わたしもこういう服が好きだし、もう決めてしまいたい。


「ねえ、有紀。私、これがいいな。これに決めよ?」


「うーん。値段も手頃だし、これにしとこうか」


「うん!」


 ようやく決まった。私は苦行が終わったことが嬉しくて、試着したまますぐに購入した。


「じゃあ、何か食べて帰ろうか」


「うん! 甘いものがいい!」


 2人で歩いていると、何か歓声が聞こえた。何だろうか?


「くまモン来てるみたいだよ」


「あー、くまモン村」


 ここにくまモン村があるのは知っていた。ちょうどショーが始まったようだ。


「せっかくだし、ちょっと見ていこうか」


「えー、もうクタクタなのに」


 有紀が小走りで行く。私は後を追いかけた。

 すると、立ち見の観客の中に見慣れた後ろ姿を見つけた。


「ちょ、ちょっと有紀」


「ん?」


「あれ、中里君かな」


 私たちに背を向けて中里君は立っていた。くまモンショーを見ているようだ。

 その横にはギャルっぽい子がいる。


「横にいるの誰だろう……」


「朋美じゃないね。でも、距離感結構近い」


 私たちはゆっくりと接近した。

 やっぱり、中里君はギャルが好きなんだ。元カノさんとは復縁しなかったみたいだけど、忘れられないのかな。そう思いながら近づいていく。


「中里、奇遇だねえ」


 有紀が話しかける。


「げっ! なんでお前らまで」


 中里君が振り向いた。


「なんだ。結局、ギャルの彼女作ってたの?」


 有紀が言うと中里君が驚いたような顔をした。


「何言ってるんだ。妹だよ、妹」


 え、妹さんか。妹さんは私たちに気がついて振り返った。


「あ、はじめまして。妹の茜です」


「はじめまして、中里君のクラスメイトの小島有紀です」


「ま、前田紗栄子です」


「あー。もしかして……」


「茜、余計なこと言うなよ」


 中里君が妹さんをにらんでいた。なんだろう?


「何も言わないから。ふーん……」


 妹さんは私たち2人をじっくりと交互に見始めた。そして、私を見る。


「うん、こっちだな――イテッ」


 私を見て「こっち」といったところで、中里君が茜さんの頭を叩いた。


「お前、マジで……」


 中里君は怒っているようだ。


「痛ーい。前田紗栄子さん、でしたっけ。兄がいつもお世話になっています」


「あ、どうも」


 妹さんは叩かれてもあまり気にせず、なぜか私にだけ話しかけてきた。


「兄は無愛想ですけど、いいやつなんで仲良くしてやってくださいね」


「あ、はい。私の方こそ、いつも助けられてます」


「え、どんな助け?」


「迷惑な人からいつも守ってもらってて……」


「へぇー。やるじゃん」


 妹さんが中里君を見る。中里君は恥ずかしそうだ。


「茜ちゃん、面白い子だね。今から一緒においしい物食べに行かない?」


 有紀が妹さんを誘った。


「いいですね! 行きましょう」


「お前、おい!」


 有紀が妹さんの手を取って進んでいく。

 仕方なく、私たちは後ろからついていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る