第24話 バスセンター

 俺と茜は路面電車に乗り、バスセンターまで来た。

 ここはバスセンターだがショッピングセンターもあり、熊本城アリーナなどもある複合施設だ。


 その2階に「くまモン村」があるが、まだ「くまモン」のショーまで時間がある。第一、まだお昼を食べていない。


「お腹空いた!」


 妹の茜が言う。


「じゃあ、地下でラーメン食べるか」


 俺は地下にある熊本ラーメンがお気に入りだ。


「ええー! もっとおしゃれなもの食べたい」


「はぁ。ませやがって。じゃあ、何食べたいんだ?」


「ついてきて」


 茜はエスカーレーターに乗り、どんどん上に上がっていく。ついには屋上まで来てしまった。


「ガーデンカフェか」


 バスセンター屋上は木々が植えられ、せせらぎもある。朋美とのデートでもたまに来ていた場所だ。ここにはガーデンカフェがあり、軽食やコーヒーを売っていた。


「ホットドッグ食べたい!」


「しょうがねえなあ」


 俺は茜の分も一緒にホットドッグ2つとポテト、それにコーヒーとカフェオレを注文する。


 パラソルがあるテーブルで出来上がりを待っていると、茜が誰かを見つけた。


「あれって……」


 茜が指さす方を見てみる。


「げっ!」


 思わず声が出た。元カノの佐々木朋美だ。棒付きキャンディーをくわえているし、間違いない。横に居る男は、知らないやつのようだ。俺に「やりなおそう」って言ってたくせにもう別の彼氏かよ。


 見つかりたくなくて小さくなって隠れようとしたが、俺の声が聞こえたのか、朋美が近づいてきた。


「どうする? 逃げる?」


 茜が言う。


「逃げたいけど仕方ねーな」


 俺は覚悟を決めて堂々と背を伸ばした。


「蒼、来てたんだ。久しぶり、茜ちゃん」


 朋美が笑顔で言う。


「お久しぶりです、朋美さん」


 茜が答える。俺が朋美と別れた後も茜は連絡を取っていたようだが、最近は会っていなかったらしい。


「よう、相変わらずモテるな」


 俺は朋美に皮肉を言う。


「え? あー、違うよ。あっちにいるのは兄キ」


「あ、そうなんだ……」


 そういえば、大学生の兄がいると言っていた。会ったことは無かったが。


 そんなことを言っていたら朋美は空いている椅子に座った。


「なんだよ、お兄さんほったらかしでいいのか?」


「いいの。私は茜ちゃんに話があるんだから。茜ちゃんには私が先輩と別れたこと言ってなかったよね」


「え? そうなんですか?」


 茜は驚いた顔だ。


「そうよ」


「じゃ、じゃあ……またお兄と……」


「そうねえ。私はそうしたいんだけど……」


 棒付きキャンディーをくわえたまま、朋美が俺を見る。


「なんでだよ。もう俺たちは終わってるだろ」


 俺は朋美から顔を背けた。


「ええー! いいじゃん、朋美さん」


「うるせーな」


 茜は朋美を気に入っている。ギャル風ファッションも朋美から全部教わっていて師匠的存在だ。

 俺が調子に乗って頻繁に朋美を家に連れてきたのがいけなかった。


「私は清楚系なんかより朋美さんがいいなあ」


「清楚系?」


 朋美が俺を見る。


「バカ。何言ってるんだよ、全く。こいつの話は聞かなくていいからな」


 茜に釘を刺すが、朋美は俺をじっと見てきた。


「蒼、もしかして好きな人居るの?」


 朋美が言う。


「まあな。お前とは正反対の子だ」


 あきらめてもらうためにはある程度話しておいた方がいいかもしれない。だが、特定されると面倒だし迷惑がかかりかねない。誰かは絶対言えないな。


「ふーん。でも付き合ってないんでしょ?」


「うるせーよ」


「ふふ。じゃあ私もまだチャンスあるね」


「無いから」


「今日はこれぐらいにしとこうかな。じゃあ、また学校で。茜ちゃんもまたね」


 朋美は去って行った。


「ねえ、お兄。朋美さんと、より戻したら?」


「無い。あ、ホットドッグできた」


 俺はちょうどよくできあがったホットドッグを取りに行った。


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