第21話 天使の自覚
小島の家を出た俺と前田さんは歩いて帰ることにした。前田さんの家まではそれほど遠くないのだ。
いつもは小島が前田さんを家まで送っている。ストーカーのこともあったからだ。俺が追い払ってからはいないようだが、いつまた出てくるか分からない。だから、俺は前田さんを家まで送ることにした。
「有紀、明日は学校来れそうだね」
前田さんが嬉しそうに言った。
「そうだな」
「でも、有紀は中里君のこと、とても信頼してるみたいね」
「え? そうか?」
「うん。今日のこともまず中里君に聞いてたし」
「本人からは言いにくいこともあると思ったんだろう」
「私がしっかりしてないからいろいろ迷惑かかっちゃって」
「そんなことないぞ。みんな好きでやっているだけだ」
「ありがたいけど、ほんと情けないよ」
「何言ってるんだ。前田さんが人気者なんだから仕方ないよ」
「へ? 人気者?」
前田さんは驚いた顔で俺を見た。
「うん。前田さん、人気あるだろ?」
「えっと、人気があるというか、みんな勉強を聞きに来てるだけだよ」
「……」
まさか、前田さんは自分の人気に気がついていないのか?
「だって、前田さんモテるだろ?」
「何言ってるの、モテないよ。彼氏とか居たこと無いし」
マジか。モテていることも自覚無いのか?
「いや、だって告白とかもされてるだろ?」
「告白? あー、罰ゲームだよね」
「罰ゲーム?」
「うん。私が気が弱いから罰ゲームのターゲットにされてるみたい。告白の手紙が靴箱に入ってて最初のうちは行ってたんだけど、今はもう無視してるよ」
「えーと……なんで罰ゲームって思ったの?」
「だって、たいして話したこと無い人が私に告白っておかしいでしょ。すぐ、わかったよ。Web小説読んでるからそういうのには詳しいんだよ。『嘘コク』ってやつでしょ」
うーむ。本気の告白が大半だと思うが、罰ゲーム扱いされていたか。
「じゃあ、いつも食堂で男子が周りにいることはどう思ってるの?」
「みんな私のそばで勉強してれば気軽に聞けるって思ってるんでしょ。仕方ないかな」
うーん、そこに男子しか居ない意味を考えて欲しかったが。
しかし、俺が勝手に自覚を促すのもまた危険かもしれない。小島に相談してみよう。
◇◇◇
その夜、俺は小島有紀に電話で相談してみた。
「うん、紗栄子は自分の人気の自覚無いよ。言ってなかったっけ」
「言ってないぞ」
「そっか。紗栄子は高校入学したとき、今よりふっくらしてたんだよね。で、だんだん痩せだして、しかも学年1位になったってことで、じわじわ人気になっていったから、自分が人気あるってわかってないんだと思う」
「そうだったのか」
「でも紗栄子は意識してないほうがうまくいくと思うよ」
「え、なんで?」
「あの食堂で人気意識してたらあの場に居られないよ。考えてみて。自分の周りに異性が10人ぐらい居て普通に勉強してたのに、実はみんなが自分を狙ってるって知ったら……」
「確かに恐くなるな」
「だから紗栄子に人気意識させないようにしてね。天使も禁止だから」
「それはわかってる。気を付けるよ」
前田さんは純真なまま高校生活を過ごして欲しいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます