第20話 小島をお見舞い
放課後、俺はすぐに
「今日は一緒に帰るように小島から言われているから」
「うん。今日はすぐ帰るけど」
「分かってる。行こう」
俺たちは並んで教室を出た。委員長の視線が痛い。後で説明しておかなくては。
路面電車の停留所まで歩いていると、前田さんが思い出したように言う。
「あ、有紀の家にお見舞いに行くんだけど」
「そうか。俺は家の前で待ってるよ」
「え? 何か悪いよ」
「俺は大丈夫だぞ」
「ちょっと待って、有紀に聞いてみる」
前田さんはスマホを取り出した。小島にメッセージを送っているようだ。
「うん、大丈夫だって」
しばらくすると前田さんが言った。
「何が?」
「中里君も一緒にお見舞い来ていいって」
「え!?」
俺も一緒に行くのか。女子の家なんて、朋美の家にも入ったことが無い。緊張するな。
小島の家は本妙寺停留所の近くらしい。俺は定期券の範囲内だが、前田さんの降りるところからは少し先になる。
停留所を降りてコンビニでプリンやスポーツドリンクを買う。そういえば美味しいプリンを要求されていたんだった。俺は少し高めのプリンを別に買った。
小島の家はコンビニからは歩いてすぐだった。チャイムを鳴らすとすぐに返事があり、ドアが開く。小島有紀のお母さんのようだ。
「紗栄子ちゃん、わざわざありがとうね。あら? こちらは?」
「初めまして。有紀さんの同級生の中里です」
「あら。わざわざありがとう。もしかして、有紀の彼氏?」
「いえ、違います」
「じゃあ、紗栄子ちゃんの方?」
前田さんがびくっとした。
「いえ、ただのクラスメイトです」
俺は冷静に言う。
「まあ、ごめんなさいね。男の子が来ることなんて滅多に無いもんで。さあ、どうぞ」
滅多に無いと言うことはたまにはあるのか。と思いながら俺は小島の家にお邪魔した。
「有紀、来たよ」
「小島、大丈夫か」
小島の部屋に入ると、小島はパジャマ姿でベッドに寝ていた。上半身を起こして俺たちを迎える
「うん。もう大丈夫。ごめんね、わざわざ」
「ううん、有紀にはいつもお世話になってるから」
「まあね。で、中里。今日はどうだった?」
そうか、小島は今日の報告をさせるために俺を呼んだのだろう。
「大丈夫だったぞ。委員長がビシバシさばいていたから」
「そっか。良かった」
「お前より厳しかったぞ。俺も近づけなくなるところだった」
「あ、中里のこと言うの忘れてたわ。ごめんね」
「いや、前田さんが説明してくれたから大丈夫だったよ」
「え? 紗栄子、中里のことなんて説明したの?」
「えっと……仲いい人って」
前田さんが恥ずかしそうに言う。何か俺も照れるな。
「ふふ。委員長びっくりしてたでしょ」
「まあな。誤解されないように言っておいた」
「そっか。委員長にもお礼しないといけないね」
「そうだな」
帰り際、前田さんが席を外したとき、俺は疑問に思っていたことを小島に聞いてみることにした。
「小島、お前が前田さんをそこまで助ける理由はなんだ? 親友でもなかなかできないレベルだと思うが」
「……そうかな? うーん、そうね、理由か……。紗栄子は私の恩人だから、ってこともあるかな」
「恩人?」
「そう。紗栄子は私が一番つらいときに救ってくれたの。まあ、本人はそんなことしたと思ってないでしょうけどね。でも、私はとても感謝してる。だから、恩返しってところもあるかな」
「そうだったのか」
「あ、紗栄子には内緒ね」
詳細はよく分からないが、前田さんは自分でも気がつかないうちに小島を助けていたのだろう。
――――――――
※今日はもう一話更新します
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます