第19話 小島の風邪
翌日、家を出ようとする直前に小島からメッセージが届く。
有紀『たいしたことないけど風邪みたいなので今日休む。紗栄子のことよろしくね。』
やはり風邪だったか。昨日は体調悪そうだったが、たいしたことなさそうならよかった。
それにしても、これはピンチだ。今まで男どもを追い払っていた小島が居ないと前田さんが無防備になってしまう。
蒼『わかった。俺が追い払うから安心しろ』
今日は休み時間もずっと前田さんのそばに居るか。そう思ったらまた小島からメッセージが届く。
有紀『中里が紗栄子のそばにずっと居たら誤解されるでしょ』
確かにそうだ。俺が前田さんのそばにずっと居て他の男子を追い払うのはおかしいか。
じゃあ、どうするんだ。と思ったらまた小島からメッセージが届く。
有紀『委員長に頼んでおいたから』
なるほど。クラス委員長は確か……
前田さんに質問に来るのは男子だけでは無い。もちろん、女子も来る。その中でも委員長はよく来ていた印象だ。黒髪ロングの気が強そうな子だ。ちなみに眼鏡では無い。似合いそうだが。
委員長なら何とかなるだろう。
有紀『中里は帰り道よろしく。家まで送ってくれたら助かる』
蒼『わかった。まかせろ』
今日は小島が居ないし、放課後は食堂に行かずにすぐ帰ることになるだろう。
学校に着くと、前田さんのそばに委員長が居た。
「前田さん、今日はまかせておいてね」
「あ、ありがとね、委員長さん」
委員長は張り切っているようだが、なんだか前田さんはぎこちないな。
それほど親しくはないのだろう。
◇◇◇
そして休み時間。
「何の質問なの?」
委員長の鋭い質問に陰キャがひるむ。
「いや、この問題……」
「これぐらいは解説読んで自分で考えなさい」
押し寄せる男どもを委員長が跳ね返している。鬼軍曹のようだ。これなら大丈夫だな。
でも、前田さんは何か小さくなってるな。俺も一言、声を掛けに行くか。
ということで前田さんの席に近づいた。
「何よ、あんた」
委員長が俺に敵意むき出しで聞いてくる。
「いや、俺はちょっと前田さんと話しに……」
「は? 用が無いなら近づかないで」
そうか。俺も特別扱いされないのは当たり前か。今日は仕方ない。
席に戻ろうとすると、前田さんが声を出した。
「待って。中里君は……いいから」
「は?」
委員長は驚いている。
「中里君とは仲いいから大丈夫だよ」
前田さんの発言に委員長は目を丸くして前田さんを見つめている。
「え、そうなんだ。大丈夫な人も居るのね」
「うん」
「……他に、大丈夫な男子が居たら先に教えておいてもらえるかしら」
「えーと……他は居ないかな」
「そ、そうなんだ」
委員長は驚いて俺を見た。
「いや、そういうんじゃないからな」
俺は委員長に誤解されないように言う。
「そうよね。中里はギャル好きだし……」
……委員長にまで俺のギャル好きは浸透しているのか。
「で、何の話なの?」
改めてそう言われるとたいした話は無い。
「前田さんが大丈夫かな、って思って」
「え? 私は大丈夫だよ」
「そうか。なんか小さくなってたからな」
「ははは。ちょっと委員長さんの迫力に驚いてだけ」
「え? 私、そんなに迫力あった?」
「あったぞ。鬼軍曹という感じだった」
俺が言うと委員長は真っ赤になっていた。
「分かった。もうちょっとマイルドにするね」
それ以降は前田さんもいつもと変わらないようだった。
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