第14話 朋美の呼び出し

 放課後、前田さんは食堂に向かったが、俺は朋美に呼び出され、仕方なく教室に残っていた。


 しばらくすると朋美が現れた。めずらしく棒付きキャンディーをくわえていない。

 嫌な予感がする。


「ついてきて」


 俺は朋美についていく。この方向は……やっぱり体育館裏だ。俺がフラれた場所。あまり来たくない場所だった。体育館裏に着くと、俺は言った。


「朋美、何か話があるのか?」


「うん。私、先輩と別れたんだ」


「らしいな。噂は聞いた」


「そうなんだ。なんか、浮気されてたみたい」


「そうか。奇遇だな、俺と同じだ」


 俺は皮肉を言った。


「うん、蒼と同じだね」


 朋美が言った。いや、浮気したのはお前だろ。


「蒼、本当にごめん」


 朋美は頭を下げてきた。


「もうあのとき、謝っただろ」


 約九ヶ月前。俺に別れを告げたときも朋美は謝っていた。


「間違いだったって今更だけど気づいた」


「ほんと、今更だな」


「うん、ほんとごめん。私も浮気されて、蒼の苦しみが初めて分かった」


「そうかそうか。分かってもらえて嬉しいよ。じゃあな」


 俺は朋美に背を向けて歩き出した。


「ちょっと待って!」


 朋美が俺の腕をつかむ。


「なんだよ」


「……やり直したい」


 俺は驚いて朋美を見た。


「今更かよ」


「うん。ほんとごめん。でも、私、やっぱり蒼のことが好きなんだなって――」


「へぇー、フラれて気がついたのか」


「そうじゃない。ほんとはすぐ気が付いてた。あの人、全然優しくないし、自分勝手だし。蒼の方がいい彼氏だったってすぐ気が付いたの」


「じゃあなんで別れなかったんだよ」


「だって、別れるってつらいだもん。出来ればしたくなかった。それに、きっとあの人も蒼のように私を大事にしてくれるようになるって信じてたし。でも、そんなこと無かった」


「だからといって、俺がまたお前を好きになるなんて思うのか?」


「蒼は私のこと、ずっと好きなままでいてくれてるって思ってたけど、違うの?」


 俺は言葉に詰まった。確かに俺はずっと朋美を引きずっていた。引きずっていたからこそ、あの頃のように戻れないと陰キャを気取っていたのだ。一ヶ月前の俺なら、なんだかんだ言いながら、きっと復縁していただろう。


 だが、最近の俺は違うような気がする。朋美のことも思い出さなくなっていた。

 俺は……


 そこで頭に浮かんだのは前田紗栄子だった。俺は前田さんを大事に思っている。彼女を守りたいという思いが強くなっていた。違う、これは恋愛感情では無い。大事に思っているだけだ。


 だったら、朋美のことがまだ好きなんだろうか。そういう思いは前田さんと出会ってからは消えてしまったような気がする。だとすると、俺は……


 いや、今は朋美のことだ。


「俺は、お前のことをもう好きじゃ無くなったと思う」


「嘘よ。だって今もそんな死んだ顔してるのは私を引きずってるからでしょ」


「誰が死んだ顔だ。もうゾンビぐらいには生き返ってるから」


「もっと生き返って昔の蒼に戻ってよ」


「無理だ。俺はゾンビのままでいい。……何の話だ。とにかく、朋美とはもうつきあえない」


「そんな!」


「ごめんな」


 俺は朋美を残して教室に戻った。


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