第13話 天使の虜

 翌日、前田さんはいつもと変わりなく登校していた。


「大丈夫か?」


「うん、昨日はありがとね」


「ああ。困ったことがあったら言ってくれ。今日も食堂には行くから」


「ありがとう」


 俺は自分の席に着いた。

 ハカセが俺を見て言う。


「お前、前田さんと話せて嬉しいのは分かるが、顔がニヤけてるぞ」


「え、そうか?」


「はぁ。お前も結局、天使の虜か」


「なんだよ。そんなことはないぞ。俺はボディガード役を引き受けただけだ」


「ミイラ取りがミイラになる、なんてよくあるからな」


「俺は違う」


「ならいいけどな」


 俺は大丈夫。俺は……ギャル好きだ。いや、そういうことじゃない。

 小島に信頼してもらってこの役を任されてるんだ。下心無しでしっかりやらないとな。


◇◇◇


 それから俺は毎日食堂に行き、前田さんの隣に座り、いろんな質問に答えまくった。そして、帰り道も路面電車で途中までは送る。ストーカーはあれから現れなくなったそうだ。


 俺は前田さんのボディガードとして、なんとか任務をこなせていたと思う。


 そして、もうゴールデンウィークも近くなってきた日の朝、俺が授業前に小説を読んでいると、何か教室が少しざわついてきた。


「お、おい……」


 ハカセが俺に声を掛けてきた。なんだ? 顔を上げると、そこには元カノの佐々木朋美が立っていた。

 いつものように棒付きキャンディーをくわえている。


「蒼、久しぶり」


 こいつと話すのはどれぐらいぶりだろう。半年か? 9ヶ月ぐらいか。


「……朋美、何か用か?」


「今日の放課後、ちょっといいかな」


「放課後は……用事がある」


 今の俺には大事な用事だ。食堂に行って前田さんを助けないといけない。


「中里君、こっちは大丈夫だから」


 前田さんが声を掛けてきた。見てたのか。仕方ないけど、あまり見られたくなかった。


「じゃあ、いいわね。放課後、ここに残ってて」


 朋美はそれだけ言ったら去って行った。


 あいつ、これだけのために教室に来やがって。話があるならメッセージでいいだろ……って思ったけど俺がブロックしてたんだった。



 休み時間になり、小島が俺のところに来た。


「もしかして、放課後は修羅場?」


「何でだよ。朋美が何の用なのか、俺も分からん」


「そっか。食堂はその後ででも来てもらうと助かるな」


「もちろん、そのつもりだ。ったく、こんな大事なときに」


「へぇ-。大事なんだ」


「そりゃそうだろ……前田さん大変そうだし」


「まあね」


 小島はニヤニヤしながら戻っていった。


 はぁ。朋美が何の用があるかしらないが、さっさと済ませて食堂に行こう。

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