第12話 天使の帰り道
校門を抜け、路面電車の乗り場に到着する。
「中里の家は上熊本の方だったよね?」
小島が聞いてくる。そういえば、こいつとは朋美と付き合っていた頃に帰りが一緒で知り合ったんだった。
「よく覚えてたな」
「悪いんだけど、いったん
小島には何か思惑がありそうだ。
「俺はいいけど、何かあるのか?」
「うん、ちょっとね。来れば分かる」
「ちょっと有紀……。中里君に悪いよ」
前田さんが小島に小声で言っている。
「俺は暇だから大丈夫だよ」
そう言って、俺たちは上熊本行きの路面電車に乗った。食堂に居たメンバーでは上熊本行きに乗る生徒は他に居なかったようだ。
段山電停で俺たちは降りた。前田さんの家はそこからしばらく歩いたところにあるそうだ。
だが、途中の公園に同年代ぐらいの男が立っていた。
「やっぱりいた」
そいつを見て小島が小声で言う。前田さんは小島の後ろに隠れた。
「誰なんだ?」
「幼なじみの内藤君……」
前田さんが言う。
「何か悪さをしてくるのか?」
「そうじゃないんだけど、毎日あそこで待ってるの」
なるほど、ストーカーみたいなものか。
「一度告白されて断ったんだけど……」
「分かった。じゃあ、堂々と行こう」
俺たちが歩いて通り過ぎようとしたときだった。
「さえちゃん!」
内藤が話しかけてきた。
「な、なに?」
前田さんが答える。
「一緒に帰ろうよ」
「大丈夫。私たちで帰るから」
「誰だよ、その男」
そう言って内藤は近づいてきた。ふむ、ひょろっとしてるし背も俺より低い。たいしたことは無さそうだ。
「俺に何か用か」
わざと低い声を出してにらむ。内藤は怖じ気づいたようだ。
「き、君は、さえちゃんとどういう関係だ?」
「俺はボディガードだ」
「ボ、ボディカード?」
「ああ。お前みたいなやつが寄ってこないようにな」
「僕は、お、幼なじみだからいいだろ」
「誰だろうと前田さんが一緒に居たくないやつは近づかせない」
「そんなわけないよな。さえちゃん、僕と一緒に居たいよな」
内藤が前田さんに言う。前田さんは首を激しく横に振った。
それを見て内藤はショックを受けたようだ。
「わかっただろ。失せろ。じゃないと……」
俺は腕を回して見せた。
「ひっ、ぼ、暴力反対!」
内藤はそう言いながら逃げ出した。
「ふぅ」
俺は息をついた。慣れないことをして俺も緊張していたようだ。
「さすが、中里。ありがとね」
小島が言う。
「ほんと大変だな、前田さんも」
前田さんはまだ小島の後ろに隠れて、少し涙目になっていた。
そこからしばらく歩いたところで小島が言った。
「もうすぐだから、ここまででいいよ」
「わかった。あとは前田さんのケアは任せたぞ」
「うん、ほんと今日はありがとう」
「ああ。じゃあな」
俺は電停の方に引き返した。
「中里君!」
前田さんの声だ。俺は振り返った。
「ありがとう」
前田さんは深く礼をした。
「気にするな。でも後で勉強教えてくれ」
「うん、いつでも聞いてね」
前田さんは笑顔だった。もう大丈夫だろう。俺は再び歩き出した。
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