第15話 食堂に遅刻

 俺は教室に戻り、荷物をまとめて食堂に向かった。

 朋美ともみと言い合って、まだ感情が高ぶっている。少し頭を冷やしたい。そう思ったが、前田さんを助けるためには早く行った方がいい。


 食堂に着くとやはり前田さんの周りにはいつものように男子が集まっていて、質問攻めになっている。もちろん、前田さんの隣の席は空いていない。俺は仕方なく離れた場所に座った。


「よお、遅かったな」


 向かいの三枝さえぐさが声を掛けてくるが、俺は無視して勉強の準備を始めた。


 まわりのやつらは相変わらず前田さんに質問ばかりだ。

 俺はいつもならそれを横取りし答えていくのだが、今日はそれが出来ずにいた。前田さんの解説が聞こえてくる。俺はそれを聞いているばかりで、何も出来ない。朋美の前で考えていたことが頭をよぎり、動けなくなっていた。


 それを見ていた三枝が声を掛けてくる。


「お前、今日は何もしてないな」


「うるせーな」


 イラだって返事を返すが、このままでは三枝の言うとおりだ。


「ボディガードはもう退職か? 何しにここに来たんだ」


 その言葉にふと我に返る。そうだ、俺はここに何をしに来ているんだ。何も出来ずにここにいる俺は……


 そう考えると、俺はここには居られないと思った。荷物をまとめ始める。


「中里君?」


 前田さんが俺の異変に気がついて声を掛けてきた。


「すまん、今日は帰るよ。前田さん、ごめん」


 俺は席を立って食堂の出口に向かった。


「中里君!」


 前田さんが声をあげる。だが、俺は逃げるようにその場を後にした。



◇◇◇



 家に帰ると妹のあかねが居た。


「あ、おかえり、おにい


「……」


 俺は「ただいま」も言わずにそのまま自分の部屋に向かう。


「どうしたの? また死んだ顔になってるよ。朋美さんと喧嘩でもした?」


 こいつ、無駄に勘が鋭いんだよな。


「朋美の話はするなって言ったろ。それに死んだ顔じゃない。ゾンビ顔だ」


 そう言って、俺は自分の部屋に籠もった。


 とりあえず気分を変えようといつも読んでいる小説を読むが全く頭に入ってこない。


 あきらめて、俺は今日の放課後のことを思い返してみた。

 いろいろ考えたが、やはり結論は一つだった。


 ――俺は……ボディガード失格だ。



◇◇◇



 その夜、伊藤健司からメッセージが届いた。


『有紀がお前の電話番号知りたいって言うから教えておいたぞ。いいよな』


「は? 事後承諾かよ」


 俺があきれていると知らない電話番号から電話がかかってきた。出てみたらやはり小島有紀だ。


「紗栄子から聞いた。どうしたの?」


「……いろいろあってな。今日は何も出来そうにないから途中で帰ってしまった。すまない」


「いろいろって、朋美とのことね。何の話だったの?」


「……やり直せないかって」


「マジ? それで、どうするの?」


「やり直すわけないだろ。それでちょっとイラついてたんだ」


「そっか。まあ、今回は事情が事情なだけに仕方ないね。今日のことは紗栄子に謝って、明日からまたお願いね」


「いや、俺はもう前田さんのボディガード失格だと思う。もう辞めるよ」


「え? どうしたのよ」


「お前の信頼を失うことになってしまった」


「は? 私の?」



―――――――

※長くなったため分けました。夜に続きを更新予定です。

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