第4話 機密







  焼き鳥は塩か、タレか。


 ラーメンの好みや目玉焼きの醤油かソースかの話のように、通ぶって焼き鳥は塩しか認めないような価値観の押し付けをする訳でもなく、そんなことをしたらまるでキリがない。


 とりあえず串盛りを塩、タレでそれぞれワンセットずつ注文すれば、各々好きなように取って摘まめるから平和的な解決方法だろう。


 もっとも、女子会そのものが平和であるかどうかは、甚だ疑問かもしれないけれどね?


 焼き鳥に合わせてウィラはレモンサワー、小幡はウーロンハイにそれぞれ浮気する一方、あたしはビールから焼酎ストレートとチェイサーの水の組み合わせに乗り換えてからそのまま、ついには面倒になってきたのでボトルセットを注文した。


 焼酎をそのままグラスに好きなだけ注ぎ入れ、チェイサー用のグラスに氷を落とせば、小気味のいい音を奏で、水を注げば氷が花開くように、クラックの入る音が一つ二つと続いた。


 焼酎を楽しみたいあたしは、焼き鳥の味は塩一択で、一応二人も摘まめるように串から外して、一欠片の砂肝を口に放り込んで噛み締めれば、サクッとした歯ごたえから口の中に広がる旨味で焼酎が進むって訳だ。


 おしゃべりを楽しみながらもあたしのご満悦な笑みを見た二人は、焼き鳥の串を各々楽しみながらも、もう少し刺激が欲しいのか、焼酎のボトルを物欲しそうに眺めているのだから、そのうち二人も合流することだろう。


「そういえばさ、最近小幡の彼氏はどうなんだ?」


「そうっすね、私の仕事が忙しいっすから、なかなか会えてないっすけど、ちゃんと連絡は取ってるっすよ。今のところ浮気している様子はないっすね」


「そらカズサちゃん、あんたチヨダやし、彼氏も下手なこと出来ひんとちゃいますか?」


「そうっすね、浮気してたら拳銃でも持ち出すっす。それ言ったら会長も姐さんも同じっすよね?」


「せやな、うちはヨコスカやから、彼氏も下手なことせえへんって信じたいわ」


「あー、どうだろうね? あたしは別に、そういう現場に遭遇しない限りはないな」


「せやな、ナギやったら拳銃や軍刀を持ち出すまでもあらへんやろ。牛久大仏やし」


「姐さんゴリラっすからね、あの人でも手を焼くっすよ。今も上手くいってるんっすか?」


「ああ、それなんだけどさ……あたしと彼はさ、コダイラの上司と部下だからね……ヨコスカとチヨダならさ、あたしの言いたいこと、わかるだろ?」


「あー、せやったな。ナギの彼氏、付き合う前から東部第33部隊の亡霊やし、そこは触れんでおくわ」


「機密情報が多すぎるっすからね、私らSにモテモテっすよ」


 コダイラ、ヨコスカ、チヨダ等、これ以上は大っぴらに話せないし、所在地以上のことは話せない。


 楽しく居酒屋で飲んでいるものの、うっかりポロっとこぼすのはもっての他だし、S(スパイ)からしたらおいしい話であろう。


 一旦話を中断し、機密情報はそれぞれの所在地に置いてきたことにして、改めてガールズトークを再開した。


「ま、相変わらず、ボチボチと言ったところさ?」


 もっとも、機密に触れない程度であれば、各々彼氏のことを酒の肴扱いしてしまうもので、日も落ちてきたことだし、そろそろあっちの話になるかもね?───。







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