第2話 トリと貴族の末裔







  トリあえずのビールを飲み干してからもう一杯、今度はゆっくりとグラスを傾けながら、ガールズトークに花を咲かせていれば、そのうち出来上がったおつまみが、次々とテーブルに運ばれてきた。


 トリあえずとばかりに、蒸し鶏とキュウリの梅和え、よだれ鶏、お新香の盛り合わせの冷菜から始まり、各々箸をつつく合間にビールを飲み干しておかわり。


 新しいグラスに注がれた生ビールをゆっくりと飲みながら、ウィラの改名の話題を掘り下げていく。


「ホント、会長の名前がいきなり『新木 志苗(アラキ シナエ)』に変わっててビックリしたっすね。まだ全然慣れてないっすから、予約の名前で呼ばれるじゃないっすか?……いや、誰って思ったっす」


「そらな、うち在学中にROCT(予備役将校訓練過程)選択したやろ? 将来的には公務員やし、ほんなら帰化せんとあかんっちゅうから、色々頭捻って考えたんや。うち、ウィラ・フォン=ノイマンやろ? 当て字にしてもええんやけど、パッと見で読めへんって言われたら説明が面倒やし、字ぃ書くのもえらい手間やし、キラキラネーム言われたら目も当てられへんわ」


「それで初見でも読める、新木 志苗か」


「最初はあれっすね、会長色々やらかして学生結婚したかと思ったっす。結婚願望と女子力無さすぎるのにどうしたって思ったっすよ」


「いや、そらうち、仕事が一番やから結婚願望なんてあらへんけど、一応今も彼氏はおるわ。せやけど全然うちに構ってくれへんし、全然連絡もきぃひんし、何年レス続いとるんやろ? それよかな、うちが女子力無さすぎってなんやねん?」


「ウィラ、お前は美人で無邪気で明るいけど、部屋が散らかり過ぎてその辺にパンツが転がっているし、うるさいしワガママで性格がキツイだろ? それにさ、お前の性欲が強すぎて、彼氏に土下座されたって言ってなかったか?」


「いや、そらそうなんやけど……その話はまだ早いっちゅうねん! お天道様が見とるがな!」


「そうっすね、それより名前の由来が知りたいっす」


 全く、相変わらずオープンというか、よく知った間柄だとこの調子だから楽しくて仕方ない。


 夜の話はあとのお楽しみにして、ウィラの帰化に伴う改名の話は、グラスを傾けながら続けていれば、おまちかねのトリの唐揚げの到着で一旦中断。


 熱々でサクッとした衣、ジューシーな一品を一つ口へと運べば、口の中に広がる肉汁と旨味で生ビールをかっこみたくなるんだ。


 唐揚げ、ビール、唐揚げ、ビールのローテーションであっという間にグラスは空っぽになり、当然おかわりをしたのは言うまでもない。


 すぐに到着した生ビール3つを空いたグラスと交換し、再び口に運べばますます饒舌になるって訳だ。


 ま、ウィラが帰化したことによって、職業の制限が無くなった引き換えに、新たな名前を授かった訳だが、由来的には概ね納得するものだった。


 今もウィラと呼んでいるけれど、彼女の以前の名は、『ウィラ・フォン=ノイマン』


 アルファベットに直すと、『Willa・Von=Neumann』だ。


『Willa 』の名前は、意志の強い活発な女の子と言う由来から、『志』の字を選び、ミドルネームの『Von』は土地を表し、先祖はユンカーと言う地主的な貴族であったことから、その土地で生産する農産物等の生産を連想する『苗』をチョイス。


 合わせて『志苗』って訳だ。


 よそ者、新顔を意味する『Neumann』は、『新』を用いてドイツ系、厳密にはドイツクォーターだけど、自然を愛する国民性から、『木』を合わせた。


 そうしてウィラ・フォン=ノイマン改め、新木 志苗として、彼女はこの国に尽くし、ちょっと古風だけど貴族の末裔らしい義務を全うしているのさ。


 もっとも、ウィラが言うには、ジョン・フォン・ノイマンというビッグネームがいるから、ちょっと遠慮しているって理由もあるみたいだけどね?


 ウィラの名前の話はこんな感じで、少し日が傾いてきたからか、もっと色々と深い話を求めたくなるし、気分転換に他のお酒が欲しくなる頃合いだね───。







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