トリあえず、久々に集まれたことに乾杯【KAC20246 参加作品】
あら フォウ かもんべいべ
第1話 ライラック
◇
楽しい高校生活もあっという間だった。
最高の青春を送ったあたしたちは卒業後、それぞれの道へ進んで多忙な日々を過ごしているうちに、やがては成人を迎え、時ばかりが加速していきあっという間に20代半ば。
高校時代からの親友であるウィラ、小幡の二人とは、たまに連絡し合うし、予定が合えば一緒の時間を過ごすこともあったけど、三人で集まることは珍しくなってしまってから久しい。
たまたま三人とも予定の合う日があり、トリあえず昼から集まって会おうと約束して迎えた当日。
待ち合わせ場所に集まる20代半ばのあたしらは、あの頃と変わったようで変わらないところもあるけれど、だいぶ大人になったもので、歳を重ねた分の深みを増した美しさ得た一方、少しばかり疲れが顔に出てしまっているようだ。
無敵だったJK時代のバイタリティーとおさらばしたけれど、大人になったが故の特権を得られたトレードオフ。
あたしら三人は集まり、日々のストレスを手土産のように抱えたまま、休日の昼間からどうやって発散しようか?……答えは実にシンプルだ。
昼から空いている居酒屋へと繰り出し、堂々と【トリあえず】のあれで乾杯だろ?
「ほな、お疲れ様」
「おつっす」
「お疲れ~」
並々と注がれた生ビールのジョッキをぶつけあえば、楽しいひとときの始まる音を奏でるって訳だ。
早速日々のストレスを一気に流し込んだあたしらは、すぐさまおかわりを注文。
女子力?……ああ、パワフルだろ?
おかわりを待つ間、お通しをつまみながら、おかわりの生ビールが届くまでフードメニューを眺め、あれやこれやと女の子三人ははしゃぎながは、食べたいものを選ぶのだ。
おかわりが届いたタイミングで、ビールに合うつまみ、トリあえず唐揚げは外せない。
それから思い思いにつまみたいものを注文し、空いたグラスを下げてもらってから開かれるパンドラの箱、ガールズトークの始まりだ。
「そういえばっすけど、会長って大学に在学しているときに、名前変えたじゃないっすか。やっぱあれって、今の仕事的に必要だったんすね」
「せやで。そらうちな、一応貴族の末裔やし、国家に尽くすのが筋やろ? せやけどな、うちドイッチュラント国籍のままやとそうはいかへんし、ほんなら帰化申請せんとあかんっちゅう訳やったんや」
「ま、あたしも同じ理由でミドルネームを捨てたからな」
「あれ、姐さんもそうだったんっすか?」
「ああ、高校時代の途中で国籍選択の通知が届いてさ、色々悩んだけど帰化したって訳さ」
「せやな、あん時大変やったわ」
「ああ、すまん」
「あ、ごめんて、そういうつもりとちゃうねん」
「いいって……ま、ミドルネームで呼ばれることなんてほぼ無かったし、特に変わったことなんてないよ。それにさ、今の仕事的には大正解さ」
「そうだったんすね。ところで姐さんのミドルネーム、どんなのだったんすか?」
「リラだ。フランス語読みでライラックのことでさ、4月生まれでマミーはフランス暮らしも長かったからね。その影響もあって、あたしのフルネームは、ナギサ・リラ・コウサカだったんだ」
「なんやって? ナギがゴリラ・コウサカ?」
「おいっ!」
「「「HAHAHA!」」」
ま、あの時に語れなかった話もいくつかあるけれど、大人になった今だったらさ、トリあえずってぐらいの気持ちで、話の種にはなるんだよな。
おかわりの生ビールも届いたし、女三人、話の種から一つ、またひとつと花を咲かせ始めたのさ。
さて、あたしらのガールズトークは、これからますますカオスになっていくだろうな───。
◇
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