トリあえず、久々に集まれたことに乾杯【KAC20246 参加作品】

あら フォウ かもんべいべ

第1話 ライラック








  楽しい高校生活もあっという間だった。


 最高の青春を送ったあたしたちは卒業後、それぞれの道へ進んで多忙な日々を過ごしているうちに、やがては成人を迎え、時ばかりが加速していきあっという間に20代半ば。


 高校時代からの親友であるウィラ、小幡の二人とは、たまに連絡し合うし、予定が合えば一緒の時間を過ごすこともあったけど、三人で集まることは珍しくなってしまってから久しい。


 たまたま三人とも予定の合う日があり、トリあえず昼から集まって会おうと約束して迎えた当日。


 待ち合わせ場所に集まる20代半ばのあたしらは、あの頃と変わったようで変わらないところもあるけれど、だいぶ大人になったもので、歳を重ねた分の深みを増した美しさ得た一方、少しばかり疲れが顔に出てしまっているようだ。


 無敵だったJK時代のバイタリティーとおさらばしたけれど、大人になったが故の特権を得られたトレードオフ。


 あたしら三人は集まり、日々のストレスを手土産のように抱えたまま、休日の昼間からどうやって発散しようか?……答えは実にシンプルだ。


 昼から空いている居酒屋へと繰り出し、堂々と【トリあえず】のあれで乾杯だろ?


「ほな、お疲れ様」


「おつっす」


「お疲れ~」


 並々と注がれた生ビールのジョッキをぶつけあえば、楽しいひとときの始まる音を奏でるって訳だ。


 早速日々のストレスを一気に流し込んだあたしらは、すぐさまおかわりを注文。


 女子力?……ああ、パワフルだろ?


 おかわりを待つ間、お通しをつまみながら、おかわりの生ビールが届くまでフードメニューを眺め、あれやこれやと女の子三人ははしゃぎながは、食べたいものを選ぶのだ。


 おかわりが届いたタイミングで、ビールに合うつまみ、トリあえず唐揚げは外せない。


 それから思い思いにつまみたいものを注文し、空いたグラスを下げてもらってから開かれるパンドラの箱、ガールズトークの始まりだ。


「そういえばっすけど、会長って大学に在学しているときに、名前変えたじゃないっすか。やっぱあれって、今の仕事的に必要だったんすね」


「せやで。そらうちな、一応貴族の末裔やし、国家に尽くすのが筋やろ? せやけどな、うちドイッチュラント国籍のままやとそうはいかへんし、ほんなら帰化申請せんとあかんっちゅう訳やったんや」


「ま、あたしも同じ理由でミドルネームを捨てたからな」


「あれ、姐さんもそうだったんっすか?」


「ああ、高校時代の途中で国籍選択の通知が届いてさ、色々悩んだけど帰化したって訳さ」


「せやな、あん時大変やったわ」


「ああ、すまん」


「あ、ごめんて、そういうつもりとちゃうねん」


「いいって……ま、ミドルネームで呼ばれることなんてほぼ無かったし、特に変わったことなんてないよ。それにさ、今の仕事的には大正解さ」


「そうだったんすね。ところで姐さんのミドルネーム、どんなのだったんすか?」


「リラだ。フランス語読みでライラックのことでさ、4月生まれでマミーはフランス暮らしも長かったからね。その影響もあって、あたしのフルネームは、ナギサ・リラ・コウサカだったんだ」


「なんやって? ナギがゴリラ・コウサカ?」


「おいっ!」


「「「HAHAHA!」」」


 ま、あの時に語れなかった話もいくつかあるけれど、大人になった今だったらさ、トリあえずってぐらいの気持ちで、話の種にはなるんだよな。


 おかわりの生ビールも届いたし、女三人、話の種から一つ、またひとつと花を咲かせ始めたのさ。


 さて、あたしらのガールズトークは、これからますますカオスになっていくだろうな───。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る