第3話 本編2

 なおとゆうに呼ばれて行くと、知らない子がいた。


「お前一人? 何してんの?」


 なおが話しかけると、その子はなおとゆうをチラチラ見比べて、ちっちゃい声でこたえた。


「えっと、何も。子どもは外で遊んでおいでって出されたの」


 夏用の涼しそうなシャツと短パン。つっても、女の子用の可愛いやつ。シャツはなんかヒラヒラしてるし、短パンにも飾りボタンがついてる。


「そか。んじゃ一緒に遊ぼ」


 ゆうが笑って誘う。けど、その子は一瞬顔をこわばらせて固まった。


「あ、その、でも、他の子がどうかな」

「良いよ! みんなで氷オニやろうぜ」


 おどおど下向いて断ろうとしてたから、俺はその子の言葉にかぶせて誘った。

 だってさ、なんでそんなビクついてるかわっかんねーけど、楽しんだ方がいいじゃん。一人で遊ぶよりみんなのが楽しいって。


 なおとゆうも頷いて、ワンピースの子だけ渋々って感じで頷いた。

 なんでだよ。仲間外れはよくないっしょ。

 短パンの女の子は、あかねちゃん。恥ずかしそうに教えてくれた。


 俺達は氷オニして走り回った。


 しばらくして疲れたから休憩しよって、あの四角い屋根のベンチに戻った。


「なあなあ、俺、ずいずいずっころばし、知ってるんだぜ」

「なになに、教えて」


 俺が得意げに言うと、ゆうがノってきた。


「みんなでまず円陣組むだろ、そんで前へ倣えして手で〇作る。一人だけ鬼がいて、鬼は片手だけ〇。今回は俺な」


 俺の説明通りに、みんな用意する。


「んで、みんなの手の〇に、歌いながらズボって片手の人指し指を突っ込んでく」


 言いながら俺は左手で〇して、右手でついてく。


「ずいずい ずっころばし ごまみそずい

 ちゃつぼに おわれて トッピンシャン

 ぬけたら ドンドコショ

 たわらの ねずみが 米くって チュー

 チュー チュー チュー

 おとさんが 呼んでも

 おかさんが 呼んでも

 いきっこなしよ

 井戸のまわりで お茶碗かいたの だあれ」


 歌いながらリズムに合わせて、順番にみんなの手の〇にズボズボしてく。


「あっ、僕のとこで止まった」


 ゆうの手に指が挿された所で、丁度歌が終わった。


「はい、ゆうの負け。歌い終わった時に指入れられてた人が負けなんだ。

 ここで終わりでもいいし、次の鬼はゆうでもいい。続けるなら、ゆうは次手で〇作るの片方無しな。最後に入れられてた手は、下ろすんだ。

 そんでもって、最後まで手が残ってた人の勝ちー」


 俺の説明に、負けたゆうは不満顔。

 説明聞いてる間にみんな手を下ろしてたけど、早速片手の人差し指を出す。


「もう一回! もう一回やろ!」

「しょーがないなー」


 なおは、やれやれって顔でもう一回両手出す。

 俺とあかねちゃんも続く。


「あれ? なんか腕少なくね?」


 俺の声に、なおとゆうが不思議そうにこっち見てくる。


「え?」

「ゆうが負けたから〇を六本に、ゆうの人差し指で腕七本。あってるじゃん」


 何言ってんの? って感じで俺を見る。あかねちゃんだけ口をぎゅっと結んで黙ってた。


「だってさっきは九本だったじゃん。てか、なおとゆうとあかねちゃんと俺と、ワンピースの子で九本スタートじゃん」


 俺の言葉になおとゆうは顔を見合わせた。


「なつ何言ってんの」

「僕となおは二人で遊んでたよ」


 俺は慌てて回り見渡したけど、あの子の姿が見えない。


「えっ」


「ほら、早く二回戦! なつも腕だしてよ」


 自分だけ負けが嫌なのか、ゆうが急かす。俺は取り敢えず腕を出して、顔キョロキョロ周りを見回してた。

 けどいない。

 結局、最後に勝ったのはあかねちゃん。


「あ、あのね、私が勝ちだったから、次の遊びは私が決めても良い?」


 手をぎゅっと握りしめて、一生懸命俺達に聞いてきた。


「うん」

「もちろん」

「なになに?」


 ゆうもなおも俺も、あかねちゃんを囲んで大人しく聞いてた。


「でんでらりゅうば、って知ってる? 手遊びなんだけど、一緒にやりたいな」


「知らないー」

「僕も」

「教えてよ」


 口々に言う俺達に、あかねちゃんは何度も披露してくれた。


「でんでらりゅうば でてくるばってん

 でんでられんけん でーてこんけん

 こんこられんけん こられられんけん

 こーんこん」


 短いのに手をくるくる色んな動きさせてて、全然ついてけなかった。


「はやー」

「あれ、どうなるんだっけ」

「すげー」


 取り敢えず歌だけは覚えた俺ら。

 そろそろお帰りの時間だって、曲が流れたからバイバイだ。


 なおとゆうが走ってって、俺とあかねちゃんも歩いて入り口へ向かう。


「楽しかったなー。俺、しばらくばあちゃん家に居るんだ。また明日も遊ぼ」

「うん、いいよ」


 二人でおしゃべりして、入り口近くまで来た時。木の茂ってる所からワンピースの子が出てきた。


「あっ、お前、やっぱいたんじゃん」


 俺が声かけたら、その子はにぃって笑った。


「ねえ、あそぼ。ゆうや君より、君の事、気に入ったの」


「いや今日はもう帰るけど」


「いや、あそぼ。おうちなんか、いいの、帰らないでよ」


 なんだこいつ。わがままじゃん。

 俺がむっとしてると、あかねちゃんが俺のシャツの裾を掴んだ。ぎゅうって握りしめた手はガタガタ震えてた。


「ねえ、邪魔よ。あなたなんか、きらい、どこか消えて」


 明らかにあかねちゃんに怒ってる。なんでだよ。

 どう断ろうか考えてたら、あかねちゃんが小声で言った。


「歌って。でんでらりゅうば、歌って」


「?」


 意味分かんなかったけど、その子が一歩ずつ近づいてくるし、近づくたびにあかねちゃんの震えがスゲーがっくがくになるから、取り敢えず歌った。


「でんでらりゅうば でてくるばってん

 でんでられんけん でーてこんけん

 こんこられんけん こられられんけん

 こーんこん」


 俺が歌い始めたら、その子はピタッと足を止めて、目ん玉ひんむいて怒り出した。

 まじ、オニババじゃん。


「おまえ! きらい!」


 あかねちゃんの事スゲー睨んでるけど、動けないみたいだ。

 俺はあかねちゃんの手を握って、勇気づけるみたいに頷いてみせてから、走り出した。

 動けないでいるその子の横をダッシュで通り過ぎる。

 あとちょっと!


 その時、あかねちゃんと手を繋いでる反対側から、ヒヤっとした空気がぞわぞわってきた。


「ねえ、あそぼ。他の誰よりも、君の事、気に入ったの」


 振り向いた俺の目の前に、真っ赤な目と、真っ黒のワンピースと、三日月みたいに切れ上がった口のナニカがいた。


「こんこられんけん! こーんこん! こーんこん!」


 あかねちゃんの必死な声が響いて、ナニカはまた動きを止めた。

 俺の頬に触れそうで触れられない。

 止まった俺を、今度はあかねちゃんが引っ張ってくれた。


 気付いたら、公園の敷地を抜けて、信号待ちしてる大人達の中に居た。


 青信号。

 俺達は七辻の交差点を渡って、交番の前でやっとホッとした。


「やっば、やばかったな、てかなんだあれ」

「なつき君にも見えてたんだね。なおや君とゆうと君には見えてなかったの。普通は見えないんだよ」

「えっ、それってオバケって事?」

「多分そんな感じ。ただ絶対いつも同じ所にいるのばっかりでもないみたい。あの歌はね、取り敢えず一旦足止めするみたいなの。あれの居場所から離れたし、明るい内に帰れば、多分大丈夫」

「そっか。ありがとう! 明日も、ここの交番前で待ち合わせてよそで遊ぼう」

「うん。嬉しい。今まで、見えるの私だけだったの」


 あかねちゃんは初めて安心したような嬉しそうな顔で、にこってした。

 俺はなんかスゲー嬉しいのとこそばゆいのが一気にきたから、笑ってごまかした。

 けど、あかねちゃんの手をぎゅって握ってた。

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