第2話 本編1

 ちょっと飽きてきた夏休み。

 俺の探検は、ばあちゃんがこっくりこっくりお昼寝してる隙に抜け出すとこから始まった。

 抜き足差し足。

 ばあちゃん家を出て、近所を探検だ!


 七辻の大きな交差点、交番を後にして渡る。

 右手に浅い川が流れて、左手に公園があった。


 「九道の辻公園」


 入り口には、なんか『n』の逆向きみたいなデッカイ石が置かれてて、公園の名前が書いてる石の柱があった。

 そんな公園の入り口辺りに、俺と同じ小学校低学年位の子が三人いる。


 一人は、ペカチュウのシャツと短パンで俺と似てる。

 一人は、青と白のよく見る感じのパーカーとズボン。

 一人は、果物柄のワンピース、スイカとかグレープフルーツとか夏っぽい果物がいっぱい。


 三人で、公園にあるちっちゃな池みたいな所の飛び石ぴょんぴょん飛んで遊んでる。


「ねえ! 俺もいーれて!」


 俺の声に、ペカチュウと青白の男子二人が振り向いて駆け寄ってきた。ワンピースの子は、さっと二人の後ろに隠れる。


「いーいーよ! 僕、なおや」

「いいよー! 僕、ゆうと」


 にかって笑って、二人とも俺を入れてくれた。


「さんきゅー! 俺、なつき!」


 俺も自己紹介。ワンピースの子は恥ずかしそうに二人の後ろに居るから、どっちかの妹かもな。いいや。


 俺達は公園の中を走り回って遊んだ。初めて来た俺に、なおやとゆうとが公園の中いっぱい案内してくれたんだ。


 公園は、うまい棒みたいに細長かった。

 真ん中にため池かじゃぶじゃぶ池みたいな、浅い水場がずっと続いてる。

 その左右にいーっぱい木があって、植え込みには花の名前の札も立てられてた。


 水場にある飛び石を落ちないように飛んだり、橋の上をぎしぎし渡ったり、緑の植物トンネルを抜けたり、秘密基地みたいな小屋があったり。

 スッゲーんだ!

 色んな探検スポットがあって、それを自慢げに紹介してくれた。


「いいか、この岩を落ちたらサメに喰われるんだぞ」


 なおが飛び石ぴょんぴょんの時に、俺を振り返って脅かすように言う。俺もゆうも真剣な顔でうなずく。

 水場を見下ろすと、ホントに落ちたら終りみたいな気になってくる。ほら、道路の白い線の上だけ歩いて道渡るみたいな感じ。


 あれ?

 水に映るのは、先頭のなお、続いて俺、ゆう、もう一人いるはずなのに、三人だけ。

 変だなって顔上げたら、すぐ後ろにワンピの子もちゃんといる。

 あれ?


「なお隊長! ついに秘密基地を発見しました!」


 変だなって、もっかい水場を見下ろそうとした時、ゆうがおっきな声を上げて俺は口を閉じた。


 俺の隣に並んだなおは、なんか神社のお社に似た感じの場所を指さして、探検家ごっこを始める。

 ちょっと広くなってて四角い屋根とテーブルとベンチがある場所は、確かに秘密基地みたいだ。

 俺もなおもノって、みんなベンチに座ってく。恥ずかしそうについてきてた子も、なおとゆうの後ろでちょこんとしてた。


「俺、ラムネ持ってきた。食べようぜ」


 俺はポッケに入れてたフエラムネを出してみせた。

 なおもゆうもやったー! っつってすぐ手を出してきたけど、あの女の子はそのすぐ後ろでただ見てる。

 俺は二人に一個ずつ渡して、そのまま後ろの女の子にも渡そうとしたけど、首を振ってぴゃっと後ろに下がっちゃった。

 いいや。あげるって一回言ったし。やっぱ食べたくなったら、ちょうだいってくるだろうし。


 もらったそばからピューピュー吹いて遊んでるなおとゆうは、妹ぽい子の事は全然気にしてない。

 兄妹って、そんな感じなのかもな。恥ずかしがってんのに、無理に押してくのもあんまだよな。


 ピューピュー吹いたらボリボリ噛み砕いて、俺らはまた歩きだした。


「なつ、こっちこっち、お前虫よけスプレーしてる? ない? しょーがないな、僕ポケット虫よけ持ってる」


 なおが俺の足や手に虫よけしてくれて、こっちこいって引っ張ってかれた。


 そこは鉄柵のおっきいアーチがあって、大人でも余裕で通れる大きさで、木かなんか植物がアーチに絡まってた。


「スゲー! 緑のトンネルじゃん」

「だろー! けど虫よけしてないとマジでヤバイから。僕いつも持ち歩いてるもん」


 そう言って、なおもゆうもトンネルを抜けてく。

 俺はトンネルの中で上を見上げたりしてたから、ちょっと遅れた。

 そしたら妹ぽい子が、やっと俺に近寄ってきた。


「すげーな」

「うん」

「なおかゆうの妹ちゃん?」

「ううん」

「え、んじゃ小学校の友達とか?」

「ふふ」


 意味分かんねー。

 あれ?

 俺来る前、なおとゆうとこの子の三人で遊んでたよな。

 あれ?

 そういえば、二人の後ろを笑顔でついてってるだけだったかも……


「お前さ」


「おーい! なつー! こっち来いよ」


 俺が女の子に話そうとした時、ゆうから呼ばれた。

 ゆうの方を振り向いた俺の目の前を、女の子はタタっと走ってく。

 なおとゆうの後ろにぴったりくっついて、にぃっと笑ってる。


 え、なんなん。

 でもなおもゆうも全然気にしてないし。なんか、これでなんか言ったら、俺が変みたいな感じ?


 変なのと思ったけど、なおもゆうも普通にしてるから、俺もとりあえず気にしない事にした。

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