第2話、拳を振り上げて、叫ぼう!【他の誰より、あなた(イラスト)は尊い!!】

いつだって、そういつの日も。

健やかなる日も、病める日も、微笑みを絶やさないあなた。


こんな町田駅7時46分発、小田急電鉄新宿行きの満員電車の中でも、あなたは爽やかで涼やかな笑みを唇に描いている。


あなたが微笑むだけで、勇気100倍!この足が浮き、メガネが歪み、カバンだけが終点まで行く箱の中に飛び込んで行ける!!


ああ、早く画面から出てきて?と腕の位置が右斜め45°の画面を何度となくタップするが、タップした部分の拡大縮小を繰り返すだけで何も変わらない。


アップするとわかる細かい処理。

複数の線を合わせた線画のようなタッチが特徴的な先輩が描く彼は、よく見るとレンダリング処理で強く浮き出る線と、影になる線に分かれて描き込まれている。


だから余計に筋肉の質感が浮き出る。また構造上、無理がないスケッチをベースに絵を載せているので、どの角度を見てもイラストによくある、構図的にあり得ない角度で見える骨格、はない。


先輩、天才!このイラスト描いてる先輩が一番「イケメン」だけど、今日のイラストもさ・い・こ・う!始発から乗ってきたのか、新聞広げて邪魔くさいおじさまも、今なら許してあげる。小田原から新宿まで2時間とか、ないわー。


お気に入りのイラストは薄手のシャツを纏おうとしているイケメン。左斜め下から見上げる構図と、薄手のシャツらしい透け具合がたまらない。


同じく透けている窓を見れば、車内はみんな不機嫌顔。スーツは無条件で「イケメン」度を3割は上げられるグッドアイテムなのに!!宝の持ち腐れ!


よれよれでもいい。俺も疲れているからわかる。だが、スマホしか見ないで眉を顰めて皺を固定させるより、背筋を伸ばして、立てばだいぶ変わる。


ブレーキが踏まれ、強制的に猫背が伸びながらも、今日のイラストを見れば、変わらない「イケメンスマイル」。


っ!ここに高らかに宣言しよう!

あなたのことを誰よりも愛していると!!

※イラストです。


熱く滾る心のままに代々木上原駅で吐き出される。渋谷まで行くにはここで乗り換え。


ようやく自由になったと、顔を上げたら、鳩がこっち向いて、フリスクを吐き出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

麻布十番でイケメンイラストレーター様への愛を書き殴る、トリあえず Coppélia @Coppelia_power_key

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ