続 ドリームチーム後編 其の10 フィナーレ 遠之えみ作

再び攻勢をかけるフブキたちにローンチは口を大きく開き黄色い液体を吐き出した。

「毒だ‼触るな‼」ロッキーの叫びも虚しく最前線にいたショットが顔の一部に浴びてしまいもんどりうって倒れた。

「チクショウ‼ちくしょう‼」ロッキーが捨て身でローンチの体を駆け上がり本体以外の残りの腕を全て切り落とした。再生には一定の時間がかかる。その間にローンチを潰さなければならない。しかし、ローンチは切り落とされた腕の事など気にも留めずロッキーのフルメットを撥ね飛ばし、逃げるロッキーの背後に毒を浴びせ、ロッキーはその場に蹲り動けなくなってしまった。

それでも蘇った3人の魔女が力を合わせてローンチの指先に集中攻撃をかけている間に、騎馬大将たちがローンチに総攻撃をかける。攻防入り乱れる中、ナイトをラボに運び込んだチートとタケルが戻り、瀕死のロッキーとショットを発見し再びラボに二人を運び出す。チートとタケルもローンチの毒の事はロッキーに聞いて知っていたので毒に触れない様 慎重に動き回り首尾よく二人を救い出した。その間にコンパス、マークが復活を遂げ、今度は5人力を合わせてローンチの指先めがけ魔術を放つ。魔術を遮る事は無理でも毒には有効かも、と云う事で、騎馬大将たちはフブキがシェルターから持ってきたゴム製の特殊加工を加えた布を体に巻き付けローンチの背後にまわった。

ところが、ローンチの顔の裏側にもうひとつ顔があって、やはり毒を吐き散らしてくる。しかも、ローンチの首が360度回転し四方八方毒を撒き散らし始めた。さすがに騎馬大将たちも後退を余儀なくされジリジリする中、スフレが羽ばたいた。

一瞬姿を消したと思われたスフレは遥か上空から回転するローンチの頭上に舞い降りると ローンチの目を鋭い爪で抉り出した。不意の攻撃で毒の吐き出しが止まった瞬間、ローンチの頭上にもう一つの影が現れた。

ローンチがスフレに抉り出された目玉を垂れ下げながら 邪悪な口を顔面一杯に広げた時、ローンチの二つの頭部が真っ二つに切り裂かれた。

フブキの剣は更に横一文字に流れ心臓辺りを切り裂きとどめを刺した。

だが、これで終わりではない。復活を完全阻止するにはハレルヤの心臓が不可欠である。

幸いハレルヤは毒の洗礼を受けておらず、自らの復活の呪文で立ち上がれるまでになっていた。肩で息をしながらもハレルヤは弟子たちを呼び寄せローンチに呪文をかけだした。 弟子たちは勿論、他の戦士たちもスフレでさえ初めて見る光景である。

ハレルヤは自身の心臓に右手を当てながら呪文を唱えだした。数十秒後、ハレルヤの心臓部分からフブキたちが見慣れた水晶玉が出てきた。水晶玉は魔女の心臓の一部だと云う言い伝えは本当だったのである。

ハレルヤが呪文を続ける中、ローンチの垂れ下がった目玉が動き出し、最早 形を成していない口から吐息の様な声が漏れた。「復讐するぞ、必ずや…」「お前は人智、魔法界でさえ力の及ばぬ所で…」ハレルヤはここで一旦言葉を切り、「終わりだ」と言ってローンチの頭部を水晶玉におさめた。

スフレは、弟子たちは改めてハレルヤの偉大さを思い知った事だろうと 感慨深くハレルヤの努力と成長に涙した。ショットがこの場にいないのが残念ではあるが。


BrainAIの中にはドクターに特化したAIも多数体おり、パンジーの両手首は勿論、ナイトも毒を浴びたロッキーやショットも元通り元気な姿で現れた。

ロッキーたちはローンチが操っていた戦艦で地球に戻る事になった。ただ、戦艦の一部は巨大タンクの破裂で噴き出した水で損壊が激しく修理が必要だった。それと、残っているドロイドやロボット兵士の操縦転換が不可欠である。相当な時間がかかりそうだがローンチが死んだ今、地球の巨大基地で指令塔を司っていたドロイドは制御され、ドロイドの指令無しではBrainハンターに特化されたロボット兵士も指一本動かすことができない。攻撃がない分取りあえず心配はないが、この快挙を早く知らせたいロッキーは奪い取った戦艦から何度も地球にアクセスを試みたが応答はない。恐らくローンチの罠を疑い慎重になっていると思われる。ロッキーは、地球に帰還するまでには誰かが気付いてくれるだろうと楽観的だがナイトだけはひどく気を揉んでいた。ナイトには仲間の知らない秘密がある。

ナイトには、まだアンドロイド化される前 愛し合った恋人がいた。ナイトと同い年のスワンと云う女性である。恋人はナイトがアンドロイドになっても変わらず愛を誓ってくれた。ロッキーたちと共にローンチの牙城に飛び込む決心をしたのもスワンの愛に応えたかったからである。ナイトの切ない気持ちは 

―――どうか無事でいてくれ―――と、今はそれだけだった。


「いいな――‼みんな、いいな――‼」 ブーブー言っているのはショットである。

ショットはWWチームの自分だけハレルヤの大技を見られなかった事に文句を言って拗ねているのだ。

「オレも見てないんだ!ドクターパンジーも‼」 言ったのはナイトである。

「ショット、凄い活躍だったぞ!みんな見てた‼」 と、チートが持ち上げると

「一人でローンチ相手に闘ったんだ、ヒーローだよ‼」と、タケルが被せる様に盛り上げた。 周りでこのやり取りを静観していた誰かが拍手すると 場は一気に盛り上がり、正に―――ストームオブアプローズ―――

ショットは少し照れながらも すっかり仲良しになったEチーム、―――特にナイト―――とハイタッチをかわし上機嫌である。ナイト、チート、タケルの三人はパンジー、パン、ドクターAIのチームオペで口述機能が付加されたばかりか、Eチーム全員が完全なヒト型ドロイドに生まれ変わっていた。それぞれの顔の造形は本人の希望通りアンドロイド化される前のものである。今はまだぎこちない表情だが、「科学は進化する、待ってて、飲食も出来る様に努力する」と言うパンジーを、身をもって体験した事でEチーム全員手放しで称賛した。 ここでも又ストームオブアプローズが起きた。パンジーは表向きサラリと受け流していたが、かなりの度合いで興奮していた事は明らかだった。パンジーは興奮すると「素」の姿が露わになる。案の定下半身の一部分から薄桃色の足が覗いた。Eチームは見て見ぬふりをするのに躍起になった。が、忖度など無縁のフブキは 「おいパンジー、バレてるバレてる!」


「ところで、二つ腑に落ちない事がある」 戦艦が出航する直前、ゲートまで見送りに来ていたフブキにロッキーが訊いてきたのは、フブキがローンチの交渉時 

一方的に通信を切った事と、あの状況でパンジーがフラリと現れたのは何故か?と云うものだった。

フブキが答えた。「ローンチの手首にドラゴンのタトゥーを見た。ローンチは紛れもないスネークの末裔だ、交渉など有り得ない。」

「そうか…ドクターパンジーは?」 「……言いずらい…」「なんで?」「ハレルヤの名誉に関わること…」 ロッキーは辺りを見回し小声で「ここだけの話って事で!」

それでも言い渋るフブキに「オレは口が堅いんだ!教えてくれたらオレの秘密も話す」 今度はフブキがロッキーの秘密に強い興味を抱いた。

「誰にも言わないでくれよ」 フブキは更に声を潜めた。 「魔法のスティックだよ、ハレルヤはショットたちにも与えるつもりだったんだが、ハレルヤにしても相手は強敵だ、動揺はあっただろう。それは俺も大将たちも同じだった。そしてハレルヤはここでミスった。井戸の抜け道から外に出る時、スティックを落としたんだ。それをラボから降りて来たパンジーが拾った」 「なるほどな、後はパンジーのタイミングがカギだったか…」 「パンジーの手首が切られた時、ハレルヤは自分の犯したミスを呪ったんだ、今も悔いている」

ところで、君の秘密は?とのフブキにロッキーは明るく答えた。

「地球は必ず甦る。そうしなければならない!時間はかかるがオレはそれを見届けるまではアンドロイドとして生きていくつもりだったが、そうもいかない」

何故だ?と問うフブキに 「限界なんだよ、どんなに科学が発展しても永遠はない。

持ってあと10年、だが、地球の寿命はまだまだ先だ、地球の寿命がくるまで人間は生きていくさ」  フブキは切なくなった。自分の寿命は1265年。出来る事なら半分ロッキーに……と思う程だった。そこへ、しんみりした二人のあいだにナイトとショットが割り込んで来た。

「フブキ隊長!俺たち話し合ったんだ!このチームはマジでドリームチームだ‼俺たち含めてドリームチームと呼んでも???」 フブキはロッキーと会心の笑みを交わし応えた。  「そうだ!そうだよ‼俺たちはドリームチームだ‼」



念願のオペラハウスが完成し、サクラは歌姫に戻った。看板のタンゴとサクラは勿論、男性vocalistの台頭もあって連日連夜 大盛況である。

オペラハウスの屋根は上空から見おろすと五角形の星形である。


その遥か上空ではオペラハウスを見下ろしながらこんな会話をしている二人がいた。

「正真正銘これで私の禊はついた…かな?」 全身白い衣装を纏った老人が言った。

「そうだな…アウトクラゥトル、私もホッとしたよ。まぁしかし、出番がなくて寂しい気もするが」 答えたのはペガサスである。

悠久の時に身を委ねる二人のすぐ横では無数の流れ星が地球に向かって流れて

いった。 

 







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