続 ドリームチーム後編 其の8   遠之 えみ作

ニオイ付けの粉末を知らぬままローンチはゲートへ向かった。

偵察用の溝から戦艦の外を見るとデリヌス兵士で固められている。

ローンチはデリヌス兵士に擬態するとゲートを開け放った。基地のBrainAIが、出て来たローンチを疑ったが胸のイニシャルがPで、しかも乗っていたのがフブキのポッドだった為AI兵士を護衛につけて帰還を許した。

ローンチの臭いがゲートから外に出た事を知ったフブキはパンジーに基地のゲートを閉じる様指示を出したが、間一髪ローンチの方が早く まんまと滑り込まれてしまった。ローンチは他のAI兵士に紛れメンテナンスドックまで進んだ所で姿を消した。井戸の外に出る途中、縦長に続く通路で百体近いAI兵士の横をすり抜け侵入を果たしたが、思惑通り井戸の前には魔女の親分が待ち構えていた。

「オマエ、一体何人弟子がいる?」 突然のローンチの質問に構わずハレルヤがスティックをかざすと同時にコンパス、スラッシュ、シータが一斉に構えた為、ローンチは表向き平静を保ちながら(慌てて)制止した。

4対1では不利だ、ここは一旦……と考えたローンチは姿を消して逃亡を図ったが、どういう事か魔女たちがピッタリついて来る。そこへフブキたちもポッドごと井戸から飛び出しローンチを囲んだ。すかさずローンチの指先がしなり魔術を発する。しかし、ハレルヤと6人の弟子が敏捷に動き回り遮っていく中、「いいな―――‼スティック!それ欲しい‼」と能天気な声を上げたのはショット。「後にして!後で渡す‼集中しなさい‼‼」とハレルヤが怒鳴る。フブキたちは一旦井戸へ避難しようと

踵を返した。だが何故か、そこへパンジーがひょっこり現れたのである。

ローンチにとっては千載一遇のチャンスである。ローンチの腕がニョロリと延びてパンジーの首根っこを掴むと自分の体の前に貼り付けた。盾である。パンジーは、手と腕だけは自由に動くが胴体から下はピッタリ張り付いている。

「動くな‼動くとこのメスブタは小間切れになる!」ローンチがパンジーを人質にしながらハレルヤたちをじりじり遠ざける。ローンチは井戸の中に隠れたフブキたちに向けて嬌声をあげた。「そこを動くな!これが見えるか⁉」ローンチは背中から3本目の腕を生やすとパンジーの天然チリチリヘアーを鷲掴みにしてフブキたちを牽制した。人質を取られては迂闊に魔術を使う事も銃やソードの武器も使えない。

「さて、改めて交渉だ。その前にオマエに訊いておきたい事がある」ローンチは4本目の腕を生やすとハレルヤを指差した。 「俺は生まれて300年経つ。大抵の事は出来るが同じ種だけは、つまり魔法使い、これだけは生成出来なかった」

ハレルヤは巧みにローンチの視線を外しながら答えた。ゆっくりと、時間稼ぎをしながら……

「根本的なもの、私にも説明がつかない」 「そう言わず教えてくれ」 「知らないものは教えられない」 「噓をつけ‼」 ローンチの腕が4本になりパンジーの首に巻きついた。 「気持ちワル‼‼アンタ蜘蛛⁉触るな‼#×♭π△αθ‥‼」

首を絞められていてもサスガ パンジーの悪態は健在だった。すると5本目の腕が罵詈雑言をまくし立てるパンジーの泡だらけの口を塞いだ。

「オレを怒らすな!言え‼時間稼ぎをしても無駄だ‼」 「だから……」その時、「私から話そう」 そう言って井戸から出てきたのはスフレだった。

「ハレルヤは知らないんだ、本当だ!かく云う私も実はそんなに詳しくないが、知っている限りのことを話そう」

ローンチの顔の裏側にもう一つ顔が現れ「ほう…⁉」と言った。

「弟子や仲間を創りだせるのは地球と共に生まれたアウトクラゥトルだけだった。君はどこまで知っている?君の父親が残した伝記の正否はさておき、彼以外仲間を創る事はできない。だが、彼は消滅する前に後継者を残した。ハレルヤだ。後世を託されたハレルヤだけに与えられた唯一無二の特権だ」 「オマエは誰だ?」

「スフレ、アウトクラゥトルに誓いを立てた梟」 そう云うなりスフレは梟の姿に変身すると翼を広げた。ここでも呆気に取られたのはEチームである。すると、イニシャルHは?と云う疑問でEチームが修羅場を忘れてワッと云う騒ぎになった。 ローンチが笑い出す。

「クズども見たか?つまりこの惑星は伝説通りの獣と家畜の星だ。オレは人間なんか興味ない!人間やオマエ達は食うものがなきゃ生きていけない面倒くさい生き物だ。だから、人間を燃料電池で動くアンドロイドに改造した。食糧危機の解決だ。身につける衣服もくだらない娯楽も不要だ、完璧じゃないか⁉」得意げに語るローンチに憤ったナイトが、止める仲間を振り切って井戸から飛び出しローンチに掴みかかろうとしたが6本目の腕に弾き飛ばされ、衝撃で体形を成していた表体が剥げ落ちた。剝がれたナイトの体の中身はフブキたちがモニターを通して初めて目にした、あの醜いアース線の塊りだった。

「クズ共!よく聞け!300年前の地球を知っているか?学んだか?何もしまい。

人間の歴史は殺し合いの歴史だ。アウトクラゥトル?所謂マスターの事だな、奴が何をした⁉ 気まぐれと偏見でオマエたち一部の獣に魔法をかけただけだ。残された人間たちはどうなった?地球を滅ぼす核を使ったのは独裁者かも知れんが、その独裁者に媚びて甘い汁を吸い続けたのは誰だ?僅かな食糧と水の為に家族さえ見殺しにする民衆と独裁者のどこが違う⁉」

自分に酔っているのか、パンジーの口を塞いでいた腕の力が一瞬緩んだ。この機を逃すパンジーではない。パンジーは自由に動く腕を伸ばし、胸元を開くと3本の棒を取り出し井戸の方へ放り投げた。

魔法のスティックである。




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