続 ドリームチーム後編 其の5   遠之 えみ作

「相当頑張ったな、裏切り者のお陰で勝った気分はどうだ?」

「………」 「ナゼ黙っている?取り敢えずの勝利を味わえる最後のチャンスだぞ」

「鬱陶しいんだよ‼てめえ――‼バケモノめ‼」 ロッキーがモニターの中心に躍り出て叫んだ。 「バケモノ?私がバケモノならお前たちは何だ?」 モニター一杯にローンチの顔がフォーカスされ 後方に控えていたアンドロイドの姿が見えなくなった。

「復讐気取りか?お前たちだけは許さんぞ!」 「黙れ‼お前は地球を食い荒らした独裁者と同じ穴の狢だろ‼エラそうに言うな‼」

「その点については異議なしだが、これでも私は忙しい。ザコは引っ込んでろ。

フブキ君、先ほどの見事な戦いに免じてもう一度チャンスを与えよう。私は地球を食い物にした独裁者ほど強欲ではない」 ローンチの、話し方は穏やかだが瞳には隠しようのない残忍さが見え隠れしていた。 「半分で手を打とう、資源の半分を譲ってくれたらこのまま引き返すと約束する」 フブキは間髪入れず言い放った。「断ると言ったら?」

ローンチが大袈裟に仰け反った。そのままモニターから引き、低い声で笑い出すと後方に控えていたアンドロイドも一斉に笑い出し、姿を変え始めた。

四天王、スフレ、ツクシとサクラ、そしてハレルヤ。次々と姿を変えてはおどけて見せる。陽動作戦かただの誇示か。ただのマッピングと解っていても不愉快である。

しかし、フブキはすぐある事に気付き「受けて立つぞ!」と言って強制的に通信を切った。

フブキは大将たちに第二ラウンドに備えての指示を出すと ハレルヤと6人の弟子を連れてパンジーのラボに走った。  「パンジー‼」「見たわ!私に考えがある!ハレルヤ、ショット、……えと…コンパス?まあいいわ!纏めて魔女さんたち、あなたたちは生命の宿るものには魔法をかけられる! 今、マッピングされた人たち全員のマッピング返しは任せて頂戴!もし、フブキの姿をしている者がいたらそれは敵のアンドロイドよ!魔女さんたちの仕事はアンドロイドの脳を操って自艦に攻撃させる事よ‼」

スラッシュがおずおずと手を挙げた。  「…スラッシュ、です。……と、云う事は私たちもポッドに乗って宇宙空間へ出ると云う……?」  「すげーや‼やったな‼コンパス腕がなるだろ⁉」 おおハシャギのショットだが 「腕はならない!」と、コンパスが憮然と応えた。

コンパスの態度に不満を持ったショットが口を尖らせて何か言おうとした時、フブキがショットの肩を掴んで言った」  「デリヌス星の為だ、みんな、力を貸して欲しい‼」 頭を下げるフブキにハレルヤは「当然のことです!防衛隊長フブキ!頭を上げて下さい‼」 毅然とした態度でそう言うと、弟子たちも慌てて背筋を伸ばしフブキに敬礼した。パンジーは眉間に皺を寄せてこの様子を見ながら魔女たちを鋭く一瞥したが、すぐに何事もなかったかのように続きを話し始めた。

「一時間以内に全員分の「新フル装備ユニフォーム(ニューフォーム)を作ります、解散‼」  ORに戻る途中スラッシュは、ハレルヤがパンジーをあまり良く思っていない理由が少しだけ解った気がした。パンジーがフブキの様にもう少し愛情のある表現で接してくれたらと思う。しかし今は、フブキの言う通り「デリヌス星のために」闘う覚悟が必要なのだ。ショットの様に腕はなりそうもないが。


一時間後、パンジーがワゴンAI(雑用係)をぞろぞろ引き連れてORに降りて来た。

ワゴンAIが抱えていたのはパンジーが豪語していたニューフォームである。

頭から足の先まで軽量化に成功した混合物資で、更に反射性を強化しマッピングを防ぐことが出来ると云う理屈で全身シルバー色で統一してある。

時間がない事もあり全員ワゴンAIに身を委ねる中、指先までニューフォームに包まれて魔術が使えるのか?と訝ったショットが人差し指を立てて、たまたまショットから一番離れた所にいたナイトに向けて魔術を発した。途端にナイトの身体が宙に浮かんだ。直後、ハレルヤの指先からビームが放たれナイトは地に足を下したが

今度はショットが基種(もとだね)の山椒魚の姿になって天井から吊り下げられるハメに。すかさずナイトが吊り下げられたショットに駆け寄り、目にも止まらぬスピードでエアーボードに文字を書き出した。

覗きにきたコンパスが顔を真っ赤にして必死に笑いを堪えているので 他の弟子たちも誘われる様に集まりエアーボードを覗き込んだ。

そこには、 「は―――っっはっはっは―――‼‼は―――はっはっは‼‼山椒魚⁉

サンショウウオ⁉ は―――はっ………」笑い声の文字が永遠と思われる程書き連ねている。結局ナイトはロッキーが止めに入るまで書き続けた。  「わざとじゃないんだ、許してやってくれ」フブキとハレルヤも間に入り、ショットも謝った事でこの件は落着した。

実を言うと……ナイトは相当驚いていたのである。ローンチが怪しげな魔術でアンドロイドを自在に操っていたのは知っていたが、自分が魔術にかかったのは初めてだったので笑うしかなかった。それであんな表現になったが、しょぼくれているショットとはなんだか気が合いそうだと思っていたのである。

に、しても、ローンチの野郎め!。どこまでも胸クソ悪いヤツだ。ローンチに寝返った反乱軍は根こそぎ脳だけ取り出されてあとは……地球に残してきた俺たちの仲間はまだ生き延びているだろうか……

地球で人間狩りをして脳だけ集めているのはローンチの息のかかったAIだ。そのAIを止めるにはローンチの息の根を止める以外にない。


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