fight15:決着の拳

 拳を打ち合う中、蓮火は闘争本能に蝕めながらも、勝利への理性を研ぎ澄まし、狙う。

(このまま、打ち合い続ければ、私が根を上げてしまいます。逆転の一手を狙わなければ…)

「ほらほら、打ち続けても、埒があかないよ! 私に勝ちたいでしょ! 雪辱の逆襲リベンジを果たしたいんでしょ! なら見せてよ、蓮火の勝ち筋を!」

「奈緒に言われなくても!」

 そう啖呵を切った蓮火は直ぐに縮地で後退し、あのの構えを取る。

 対して、奈緒はによる正拳突きの構えを取る。

「こっ、これって!?」

「ああ、次で決着が分かる…!」

(先に拳を当てた方が勝ち、でも、彼女、鬼門蓮火先輩がそれだけで勝てるなんて思ってないはず、何かを仕掛けるのか?)

 実況席も、群衆も彼女たちの緊迫した空気を察知し、読んだ結果、静まりかえる。

 息も継がせぬまま、刻一刻と時間が過ぎ、その時が迫った。

 蓮火は縮地による接近をし、奈緒はそれを素早く察知し、拳を放つ。

 誰もが相討ちを期待する。しかし、空手経験者である一心と格闘技知識を豊富に持つ王児だけは見解が違った。

(蓮火先輩の拳はだ!?)

「駄目だ、奈緒! そいつの狙いは鼻っから…!」

 一心の呼びかけも虚しく、奈緒は拳を伸ばし出し切る。

 しかし、蓮火は体勢を曲げ、彼女の拳を寸前に躱し、さらに、体軸を横回転させ、背中を地面に向け、自身の眼前にある顎を狙い、上段突き《アッパーカット》を放つ。

「鬼門流総合武技術第一奥義、火縄狂弾くるいだま…!」

 奈緒は予期しない体動と死角からの攻撃に気が付かず、不意に顎からの衝撃の理由さえ解らず、痛みと共に脳が揺られ、眠りに堕ちた。

 蓮火はそんな彼女をイナバウアーの如き体勢で抱き締めた。

 その異様な光景と決着に誰もが固唾を飲み、黙ったままだったが、ある一人が今回の決闘が引き起こした感動のあまりに起立スタンディング喝采オベーションを送り、周りが釣られ、いつの間にか群衆全員が拍手喝采を送った。

 しかし、実況席の三人が未だに立ち尽くすだけだった。

「なっ、何が、どうなったの!?」

「始めからあいつは相討ちを誘ってたんだ…確実に懐に入り込むように…、畜生、奈緒の奴、俺以外のに負けるなんて!」

「あの異様な立ち姿であの威力の正拳を…もはや、人並外れた技です。」

 そんな三人に対し、審判である奈那は安堵した表情をする。

(これでよかった。我が一番の娘が鋼原流空手次期師範として勝てなかったのが残念だけど、これで彼女の心が晴れるでしょう。本当にの娘と友達になって、本当によかった。)

「あ…あの、奈緒のお母さん…」

「なぁに? 奈緒の大切な友達さん。」

「この体勢で打ったら、腰が痛くなってしまって…助けて下さい…」

「ふふ、奈緒に似て無茶をする子供ね。分かったわ。」

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