fight14:カウンターファイト

 奈緒は立ち上がるのを束の間、今度は蓮火が黒き彼女と同じ、を振るう。

 その正拳の打ち方に一心は気付く。

「あれは…鉄拳打ちだと!?」

「ええ!? まさか、奈緒の技をパクったの!?」

 奈緒はあえてその正拳を交差した両腕受け、防御した。しかし、腹の中心に衝撃を受ける。

 見れば、先ほどの顔面への正拳とは別に腹部への正拳を同時に放っていた。

「あれは山突き! 顔面の上段と腹部の中段への両手の正拳を同時に行うというスポーツ化した空手では見ない技です!」

「しかも、あれも鉄拳打ち!? ということはあいつ両手で鉄拳打ちをしたってのか!?」

 不意の攻撃を受けた奈緒はそれでも笑いを絶やさないどころか、それを嬉々として躍動している。

「キャハハハ、門外不出の技を見様見真似で、しかも同時に…でも、私の方が威力も、精度も上よ!」

「アハハハ、私もそう思います! この試合に勝ったら、伝授をお願いします!」

「フフフ、勝つ気でいるなんて、まだ楽しみたいなぁ!」

 奈緒は再び鉄拳打ちを仕掛け、蓮火も同時に彼女と同じ拳を仕掛ける。

 その同時打ち《クロスカウンター》が始まった。しかし、それでは終わらず、二度や三度、否、それ以上の回数を無限に行う。

「あれはカウンターファイト!?」

「なっ、何なのそれ!?」

「格闘の最中、互いの拳をぶつけ合い、片方の根気が負けるまで殴り合い続けるという路上格闘ストリートファイトでの一種の精神集中領域ゾーンです!」

「ということはどっちかが敗られるまでの最後の闘いか…頼むから、こんなところで負けるなよ、奈緒…」

 黒い少女が息継げば殴られ、赤い少女が目を離せば殴られる、防御や回避を捨てた攻めだけの永遠と我慢比べが始まった。

「キャハハハ、凄いよぉ、こんな痛くて楽しい思いは始めてだよぉ! どっちがぶっ倒れるのが楽しみだよぉ! でも、最後に立っているのは私だけどねぇ!」

「ハハッ! まだまだこれからです! 負けませんよ、奈緒さん!」

「もう、さん付けはやめてよ! これからは奈緒って呼んでよ! 私たち、全身全霊で身体と拳をぶつけ合う仲なんだし!」

「なら、私の事は蓮火と呼んで下さい! 奈緒! フフフ、アハハハ!」

「じゃあ、蓮火、これからもよろしくね! フフフ、キャハハハ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 拳の骨肉をぶつけ爆ぜ合う音と少女たちが互いに笑い合う異様で白熱と化した光景は群衆たちの度肝を抜いた。

 

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