fighter2:鋼原奈緒・後編

 私が理性を取り戻した時、一人目覚めた門下生を見つけた。すかさず私は手を差し伸べた。

「大丈夫? 安心して、悪漢共は全部私が倒したから、ね、だから…」

 その子は私を見るや否や、差し伸べた手を強く払い、恐れたように拒絶する。

「私に近づかないで、この化け物! 笑いながら人を嬲り倒すなんて、人間じゃない!」

 その子は脱兎の如く道場から駆け出た。それを見届けた私は辺りを見回せば、黒い胴着の悪漢たちが腕や脚を曲がるように折られ、あちこちに腫れや血に塗れて、顔面さえも輪郭が壊されたように歪み、歯や顎が折られている者も数人いた。

 起き上がった門下生たちは自分たちが受けた仕打ちよりも酷い惨状を目に焼き付き、私を嫌悪や恐怖で見つめていた。

「待って、違う! こんなの私じゃ…!」

「来るな! この化け物!」

「何が鋼原流だ!? 人外の殺人術じゃねぇか!」

「殺される! この女に殺される!」

 今まで暖かい目を向けていた門下生たちが冷ややかな目で失望し、あの子と同じく、私の前から逃げて去って行く。

 そこで私は気が付いた。何故、あの娘、鬼門蓮火が闘うことを恐れたのか。

 彼女と同じ鬼が私の心を巣食っていることを。


 その後、警察はこのことを強盗事件として表に片付けた。数十人を出刃包丁や拳銃を無しに素手で倒す強盗犯なんている訳がない。

 きっと、裏では私という鬼の存在を恐れて、世間に隠したかっただけ。

 あれから、私は人目で鬼だと恐れられるのを恐れ、部屋に引き篭もった。頭の中であの時の悲鳴や怨嗟の声が木霊する度に憂鬱に支配され、極限の心理圧迫に晒され、気付いた時にはあの悪漢共に負けた記憶にすり替わった。あの娘、鬼門蓮火との約束を永遠に忘却することと代償に。

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