fight12:私の炎
奈緒は頭を抱え、悲鳴を上げる。被害者だと思った自分が加害者で、自分の空手を嫌っていたことを。
「ごめん…ごめんね…本当に分かってなかった…もう…私は空手なんて出来ない…誰かを傷つける自分が怖いの…」
「奈緒…」
親友である一心はただ我が宿敵の倒錯した恐怖心を見守るしかなかった。
「もう倒してよ…こんな鬼の私に空手をやる資格なんて…」
「鬼なんかじゃありません。」
「え…?」
奈緒の前に立った蓮火は彼女の前で正拳突きの寸止めを行い、自信満々に答える。
「うちの家訓には無鬼制心、いないはずの鬼に惑わされず、心を制するというのがあります!」
「だから、何なのよ!? そんなこと言われたって、傷つく事に変わりないじゃない!」
「私は傷つきません! 私は壊れません! 私は恐れません!」
満面の笑みで答える蓮火に奈緒は戸惑いつつ、心の中に陽射しのように暖かい何かが芽生える。
「あなたに鬼がいないことが分かるまで、何度でも闘います! そしたら、必ず思い出す筈です! 約束以上に大切な闘志と闘いへの純粋な愛が!」
蓮火の笑顔が太陽のように輝いて見えた奈緒はその暖かさに心地良さを感じながら、心の闇を徐々に刮ぎ落とされていく。
「じゃあ…私の拳で血が出ても、嫌わないでくれるの?」
「はい!」
「じゃあ、私の蹴りで骨が折れても、恐れないでくれるの?」
「はい!」
「じゃあ…!」
蓮火は不意に顔面を殴られ、後ろへ仰け反った。
殴った張本人である奈緒の顔色を見て、群衆は背筋を凍らせた。
彼女の瞳の輪郭はどす黒い炎の光を纏い揺めき、無邪気さと残酷さを物語り、それに呼応するかのように乱れた髪型に黒く淡く光り、息が荒い口元の口角が曲がりに曲がって、孝悦した表情を浮かべる。
「私が本気を出しても、暴走しても、壊れないんだぁ! そういう
喜び勇む奈緒に答えるかのように立ち上がった蓮火。そんな彼女を見た群衆たちもまた、声を出せない畏怖を感じてしまった。
彼女の瞳の輪郭が血よりも赤い紅蓮の炎を纏い揺めき、乱れた髪型に赤く淡く光り、折れそうなくらい歯軋りは血を噛み締めすぎて口元の口角が曲がりに曲がって、躍動した表情を見せる。
「私もです! 自分が負い目を感じず、むしろ、殺してくれそうな強い
蓮火と奈緒。赤と黒の少女たちは向かい合い、狂気に満ちた喜びを確かめ合い、約束された再戦が始まる。
「あの頃の空手大会で奈緒さんと面を向かって戦った時、心躍るような闘いを夢見ました!」
「あの時の空手部の悪漢共を倒した蓮火さんを見て、私はあれらの技の痛みを肌で感じたいと悶えたわ!」
「あなたの技の鋭く、重く、素晴らしい技を受けて、尊敬を超えた崇拝の念を抱かずにはいられません!」
「あなたの技は一直線で駆け抜けた拳の強さと痛みには満足よ、もっともっとあなたの技を見せて、達しちゃうから!」
「さぁ、奈緒さん!」
「行くわよ、蓮火さん!」
「共に高みへ! 楽しくも愛おしい闘いへ!」
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