fight10:揺らぐ炎
重い手刀を打ち続ける奈緒に蓮火はただ受けるしかなかった。しかし、
「ねぇっ、あれって
「何だと?」
彼女の両脇を閉じ、両肘を曲げ、下半身を八の字で立つ構え。それは攻防一転の空手の構え、
(あいつ、耐え忍んで待っていたのかよ!?)
一心が気付いた瞬間と同時に蓮火は行動に移す。奈緒の手刀が彼女の脇腹に打とうとした瞬間、軸足を回転させ、体幹を逸らして回避すると同時に拳をがら空きだった奈緒の脇腹に貫く。
「かはっ!?」
奈緒はこの試合初めての衝撃を味わうも、崩れそうな体勢を踏ん張り直し、今度は正拳突きを蓮火の腹に打ち抜こうとするも、まるで蝋燭の火が風圧で避けるかの如く回避し、拳で応酬される。
「何なんだよ、あれは?」
「あれはおそらく脱力です。」
「脱力って力を抜くこと? それって当たったら痛そうじゃない?」
「ですが、彼女は力を抜くことで余計な重さを軽量化させ、拳や手刀の風圧を木の葉や蝋燭の火のようにのらりくらり逸らして回避しています。それに攻める時は脱力を解除し、攻撃に転じています。」
「何ていう、身体の性質なんだよ。」
(そうです! これが鬼門流総合武技術第六奥義、
回避されては一方的に攻撃されるその繰り返し《ループ》を気付いた奈緒は運速で後退り、距離を取る。しかし、蓮火はこの時を待っていた。
「いけない! 距離を取るな、奈緒!」
一心の声援を虚しく、蓮火が繰り出したのは火縄による遠距離を詰める縮地の正拳突き。奈緒は自身の土手っ腹に鋭い重みを感じ、背中から流れ落ちるように倒れた。
「がはっ!? 痛い…」
蓮火は自身の自慢の一撃を喰らわせたことに幼子の如く飛び跳ね繰り返すほど歓喜し、奈緒を煌びやかな瞳で見つめる。
「どうですか! どうですか! どうですか! 揺炎で接近戦を制して、距離を取らせる事を心理的に誘導させ、火縄で詰めるというこの必勝パターン! 前日に色々な策を頭の中で練らせてよかったです! さぁ、奈緒さん、まだ時間があります! じっくり、闘いを楽しみま…!」
その時、蓮火の左頬は奈緒の曲がり殴り《フック》に襲われ、倒れた。
蓮火の前向きで明るい表情は奈緒にとって、それはあまりにも理不尽で腹立たしかった。
故に怒りに突き動かされた彼女は蓮火の上に馬乗りをし、衝動のままにタコ殴りをした。その姿は空手家としての武術家としての誠実さはなく、寧ろ周囲には母親が赤子に振るう暴力的に映った。
「なっ、奈緒!?」
「うるさい、黙れ! この屑戦闘狂! お前なんて、道場破りに来た奴とあの空手部共と同じよ! この能無しの喧嘩好きが! 私はもう闘いたくないのに、傷付けたくないのに! あんたが私の前に現れたせいよ! 私の前から出てけ、この暴力独裁者が!」
八つ当たりともいうべき技術無き荒い拳の振るい方をする内に奈緒は蓮火の頬に涙がうっすら浮かべているのに気付き、拳を見れば彼女の鼻血に塗れたことに血の気が引き、青褪め、彼女から急に離れ、自分がしてきたことへの恐怖に蹲る。
「違う、私はあんな奴らと違う…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
群衆は前半の闘いぶりには賞賛をしていたが、こんな無様でありながら、あまりにも哀れな光景に怒号さへも出さなかった。
「もう、ここまでね…両者は戦闘不能により、この勝負は」
「待ってください!」
審判である奈那の采配に口挟んだのは蓮火だった。彼女は立ち上がり進み、疼くまる奈緒を優しく抱きしめ、背中を摩り、頬を合わせる。
「大丈夫ですよ、奈緒さん。私、気にしてません。だって私は鬼子ですから…」
涙を流したはずの蓮火の顔は優しい笑顔を語り掛けた。
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