fight8:始まりの再戦

「これはどういうことなの!?」

 試合当日、赤と黒の少女たちが雌雄を決する道場には次々と学生たちが観客として群がっていた。稽古場に入りきらなければ、隣接した庭に埋め尽くされる。

 その原因を作った諜報人らしき少女、呂夢に問い詰める為に彼女に極み技をかける奈緒。

「だって、しょうがないじゃない。謎の転校生と空手美少女との激動の戦いなんて、私たちだけで盛り上げられわけないじゃない…痛たたたた。」

「もう、これ以上に私という友達を晒し者にして、今度という今日は。」

「まぁまぁ、落ち着きなさいな、奈緒。」

「お母さん! 他人事だと思って!」

 奈緒を宥める母親の奈那、そんな彼女たちの下に人混みを押し退けて、一心がやって来た。

 顔に殴打の跡がついたその男を見た奈緒はジト目で睨み、ため息をついた。

「戦ったのね、あの娘と。随分やられて、男前になったわね。」

「そんな些細なことはどうでもいい。それよりもお前、この戦いで終わるつもりだろ。」

 その言葉を聞いた奈緒は呂夢をしばくのをやめ、彼らに後ろを見せ、試合会場と化した稽古場へ向かおうとする。早く、蓮火との決着を果たす為に。

「おい、勝手に行ってんじゃ…」

「私は終わらせる。決着をつける。私の邪魔はしないで。」

 厳しくも言い放つも寂しい背中を見せる彼女に対し、「空手を辞めるな。」とは言えなかった。彼女の力を利用して非道な者たちがいる空手部を改善させようとする浅はかな自身の意地っ張りさが邪魔をした。それを確信した一心は自身に対して失望した。

(嗚呼、俺って本当にどうしようもないらしいな…頼む、鬼門蓮火。奈緒を…。)

 彼の拳は血が滲むように握り締め、震えた時には奈緒はもう既に蓮火の前に立ち、構えた。

 重く暗くても真剣な眼差しを忘れない奈緒に対して、蓮火は満面の笑みという決意表明を表す。

「奈緒さん! 私、この戦いをずっと楽しみに…」

「決心を揺らがせないで。」

 奈緒の冷たい一言。その一言が道場の空気を震撼させ、試合を面白がって観る群衆を黙らせる。

「格闘技やら武道やら言ってるけど、結局の所は暴力を正当化して、弱者を虐めてたのしむだけよ! あなたもその一人だって言うなら、私があなたを終わらせてあげる。」

 そう言った瞬間、奈緒の身体にドス黒い闘気が帯びる。その光景に群衆は固唾を飲み込む。

「あれ、本当に鋼原奈緒なのか? ギャップどころか別人じゃね?」

 そう言う人もいる程に、明るさと誠実さを捨てた彼女を前に蓮火は今までの笑みを捨て、あの悪漢共を倒した奥義【火縄】を構える。

「なら、拳に思いを語り、戦いで通じ合うのみ。」

 両者の構えを見た奈那は我が娘とその同級生との稽古試合ではない真剣さを感じ、審判を仕切った。

「それでは、両者! 始め!」

「鬼門流総合武技術第一奥義、火縄!」

 火蓋は切って落とされた開口一番に蓮火は前よりも力とスピードを増した正拳突きという奥義を放つ。木床でさへ摩擦熱で燃えてしまうほどの熱を帯びる始末。

 しかし、見知った奥義を易々と受ける奈緒ではなかった。蓮火の正拳が懐まで迫った瞬間、手刀をがら空きとなった彼女の右肩に目掛けて、打った。

「鋼原流空手第一武技、瓦割り!」

 その手刀は鉄パイプの如く振り下ろされ、肉が衝撃爆ぜ、骨格が抜ける音を上げた。その音が始まりのゴングともなった。

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