fight5:真なる暴力
蓮火は破幻の非道な仕打ちをものともせず、終盤であっさりと勝利をした。そんな彼女を奈緒たちが駆けつけ、祝う。
「あなた、やっぱり格闘技を習ったことがあるのね! あんなに精錬された技を見るのは初めてよ! 一体どうしたらあんな風に?」
「ふふっ。やっぱり、奈緒さんは空手が好きなんですね!」
「あっ、いや別に…、偶々、見入っただけよ。もう、私には関係無いことだし。」
蓮火は奈緒にはまだ空手への情熱が残されているのを確信して、微笑むが、奈緒は自身のトラウマを一瞬忘れたことを悔やみ、目を逸らす。
「まさか、あの猛攻を耐えてから逆転するなんて! 凄いじゃないか!」
「一心、この娘の…蓮火の構えをちゃんと見えてなかったの?」
「そう言えば、最初変な構えをとってたわね? あれ、何なの?」
「
「ああ、そう言えば、奈緒のお袋さん…師範に教わったことがあったな。」
「一心先輩って、本当に空手やってたんですか?」
呂夢が目が泳いでる一心に対して毒突くと、顧問の先生が他の上級生たちと同じく、がんを飛ばす。
「おいおい、何やってくれたんだ。
「はっ!? 何言ってんのよ!? ちゃんと合図前に…」
顧問の先生の物言いに反論する奈緒。しかし、審判役は挑発するように言い放つ。
「はぁ? ちげぇし。言い終わる前にそっちが先にやったんだろうが。」
「てめぇ、わざと長ったらしい合図をしたのはこの為かよ! 最初から正々堂々勝負する気はなかったのかよ!」
「こんなの最低すぎるよ! 人間として最悪というか、もう屑だよ!」
「うるせぇ! この俺が卑怯だと言ったら、卑怯なんだよ! てめぇら全員、俺らに謝らねぇと、退学にするぞ! 就職活動に汚点が付くかもな! ギャハハハハハ!」
再び、下卑た笑いを上げ、上級生や審判も釣られて、嘲笑する。
(何が格闘技よ! 何が武道よ! 結局、暴力を正当化したいだけじゃない!)
「ひゃひゃひゃ、先生の言う通りだべぅえ!?」
醜悪な笑みを浮かべた審判役は蓮火のアッパーカットによってさえぎら遮られ、無様な顔に変形した。
「なっ、何しやがるんだ!?」
「もういいです。あなた方には最初から何の期待もありませんが、弱者を虐めるだけの暴力に走り、人を傷つける余韻に浸り、挙句の果てに負けを認めず、卑怯を許した…」
「それの何が悪いんだよ! 殴るから傷つくのは当たり前だろ! 強いやつしか対等に戦えないだろ! 弱い奴が空手をする資格はねぇだろ!」
顧問のどうしようもない卑劣な言い分は蓮火の前髪を逆立てさせ、額に血管が浮き出るくらいに怒り、瞳には無情の炎を浮かび上がらせた。
彼女の齎す刺激を感じそうなほど張り詰めた闘気に、顧問や上級生は内心は恐れ、奈緒たちは息を飲む。
「てっ、てめぇら! あのアマをやっちまえ!」
痺れを切らした顧問は残りの上級生たち数十人をたった一人の蓮火に襲わせる。上級生たちは空手の構えを取らず、どちらかというとチンピラの素人喧嘩のように腕を振りかぶったり、足蹴の為に脚を上げようとした。
しかし、当の本人である蓮火は前方三人の攻撃に対し、胴体を捻るかのように回転させ、下からの飛び蹴りを三人一気に喰らわす。
「おい、何だあの変な蹴り方!? あれ、もしかして、空手の蹴り方じゃねぇよな!?」
一心は奇妙な蹴りに感嘆を述べるも、今まで見たことのない格闘術に不思議に思う。すると、突然、先程まで虐められた後輩が前のめりで観戦し、眼鏡の奥の瞳を輝かせ、得意げに語る。
「あれは卍蹴りです。体軸の変化させ、攻防に転じる躰道の奥義の一つ。防御よりも回避に専念した武術スタイルならではのカウンター技です。」
「えっ、あっ、うん? 解説ありがとう…」
うだつの上がらなかった後輩が意気揚々と解説役を名乗り出る。そのような格闘漫画的展開に先の技に驚いた一心は後輩の熱心さに引いたことで冷静を取り戻した。
一つの解説を終えても、蓮火の戦いは終わるどころか白熱を増す。彼女の前に他の上級生の中でも一際どころか二回りほど図体が大きい大男が現れ、羽交締めにしようとする。
しかし、蓮火は開脚した足を強く踏み締め、掌底を大男の鳩尾にぶつけると、彼は唾液と下呂を吐きながら、倒れる。
「うぉ!? あれは発勁! 筋肉で発する運動量である勁を発し、至近距離で攻撃する中国武術の奥義の一つ。しかも、あれは鎧の中でもダメージを与え、身体中の水分を振動させることで気絶に至らせる浸透勁じゃないですか!」
「あの〜、私的には解説役を完璧にこなす君の方が凄いと思うんだけど。」
「あっ…しっ、失礼しました。いきなり出しゃばってしまい。」
後輩が我を忘れて熱中した事に恥じらうが、蓮火の技はそれだけではなかった。
掴みかかろうとした者には合気道で力を返し、宙に投げつける。
殴りかかろうとした者はボクシングのフットワークで回避し、高速のジャブをお見舞いする。
蹴りかかろうとした者はムエタイのキックで対抗し、相手の足を軽い骨折をさせる。
押し倒そうとした者には相撲の櫓落としやプロレスのバックドロップを披露する。
別種別流派の様々な格闘の技技を繰り出す蓮火、それを見た奈緒はある想定に達する。
(総合格闘技や軍隊格闘術のような実戦に使えるいいとこ取りの合理性どころじゃない。全ての格闘技で活かすべき良点とカバーすべき欠点を網羅し、手足を動かすように簡単に使いこなしている。こんなの、途方もない天才か、それとも)
「途方もない努力なのかな…」
そう呟いた奈緒の口元はニヤついていた。まるで、羨ましいかのように、興味津々かのように、空手を打ち込んだあの頃の情熱が蘇ったかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます