fight4:無双無差別級の実力

 急遽、始まることとなった空手部対鬼門蓮火の名誉対抗試合。転校初日の未知数の可能性じつりょくを持つ蓮火に対し、空手部は主将の弟である諸曽麩もろぞふ破幻はげんである。

 彼は狡賢い釣り目と狐のように痩せてしなやかだが、屈強な肉体を持つ所謂機能美筋肉だが、姿勢が猫背であることが気味悪く思える金髪の半グレ。

 そんな二人は稽古場にある小汚い木目床という戦場に立ち、向かい合う。白帯の空手着を着た一方は真剣な目付きで誠意を訴え、黒帯の空手着を着た一方は嘲笑しながら、舐めずり回す。互いの関係者は戦場の外側で試合を見届ける。

「諸曽麩破幻っていえば、悪質なナンパを繰り返しては、捕まるけど親がとある大企業の社長だからもみ消してるし、それよりさらにヤバいのは兄と共に腕っぷしが強く、隣町の空手部や不良を再起不能にしたって悪質な噂が立たないのよ。」

「あんな奴が黒帯なんかじゃねぇ。前の先輩と顧問が抑えたおかげで去年は何事も無かったが、その先輩たちが卒業で引退したのを皮切りに本性を表しやがったんだ…」

「ちょっと待って。一心、何でそんな最低な状況な部活に入らせようとしたの?」

「すまねぇ、こいつらの暴走は俺だけじゃ止められねぇからお前にも助けてもらおうと思って…」

「一心さん、この試合が終わったら、腹に三発は覚悟してね。」

「すみません、本当にすみません。それより、大丈夫なのか? 空手道場の娘である奈緒じゃなく、あの赤毛の女の子で?」

 未知数の転校生に心配する一心に対し、蓮火は真剣な表情で赤い瞳を滾らせる。まるで、獄炎のように眼差しは鋭く燃え上がらせるように。そして、をする彼女を奈緒は見入った。

(あの構えってまさか…)

 一方の相手である破幻は彼女を身長差から子供だと蔑むも、彼女の可愛さを見て、厭らしい妄想をし、それを見抜いた顧問の先生が檄という野次を飛ばす。

「おい、 破幻! 相手が下級生だとしても油断して、部の看板に泥を付けたら、ただじゃ置かねえぞ!」

「ははっ、分かってますよ! 別に勝ちゃあ、このアマをどうこうしてもいいんですよね!」

「ああっ、そうだな。虐めても、犯しても、好きにしてもいいってことだ! ガハハハハハ!」

 下卑た笑いしか浮かべない年長集団に蓮火の瞳は失望しきった冷めた視線を向ける。

 そして、その上級生の一人が審判になり、不遜な態度で他のと同じように厭らしい目線を彼女に向けつつ、

「それでは〜、只今より〜、新入生と上級生の試合を始めまっす!」

 舐めた口調で蓮火側を苛つかせながらも、戦いのゴングが鳴り響こうとしていた。

「位置について、始…」

「しゃおらぁぁぁぁぁ!」

 しかし、口上の前に破幻が踏み込み、蓮火の前面を思いっきり殴り付ける。さらには、次々と素手の殴りや素足の蹴りを交互にラッシュさせる。嘲笑し続けながら、暴力に酔う彼の顔は目元口元は悪魔のように吊り上がらせる。

 あまりにも凄惨に酷い試合光景にも関わらず、上級生は見世物だと嘯き、脂汗が滾り、臭い息を撒き散らしながら、笑う。

「いいぞ、もっとやれ! 破幻、お前は我が部の期待のエースだ!」

「ガハハハ、ざまぁねぇな!」

「おいおい可愛い子が台無しじゃねぇか、ギャハハハ!」

 その現実に呂夢は両眼を手で覆い隠すことで穢らわしい公開処刑と化した試合に目を逸らすも、奈緒と一心、そして、先程虐められたは苦虫を噛み潰しても、目を逸らさなかった。

「なんて卑劣なの! こんな奴らが野放しになるなんて!」

「こいつらは空手家どころか武道家じゃない! 屑野郎の暴徒だ。」

「もう、やめてよ! 今すぐ、別の先生を呼んで…」

「いや、その必要はないわ。だって…彼女の空手は完成してるもの」

 不意に奈緒から投げられた有り得ない台詞に一心たちは呆気に取られるが、よく試合を見ると、蓮火は破幻の猛攻に押されるどころか、全然後退せず、不動の巌のように屈しなかった。

 破幻はそれに気づかず、勝ち筋が見えたかのように左ジャブをかます為に大きく振りかぶろうとする。

「さぁ、とどめの時間だぜ! お嬢さ…」

「不細工な戦い方ですね。空手ではないじゃないですか。」

 冷静に吐き捨てた蓮火はがら空きになった破幻の顔元に上段突きを放つ。その余りにも速い突きは骨ごと血管が壊される鈍い音を放つ。

「がぁ…!? はぁ…!?」

「見せてあげましょう、空手の真髄を!」

 完全に油断していた破幻に気にも留めず、蓮火は裏拳脾臓打ちを彼の腹と胸の間に打ち抜き、前蹴りで左脚を挫かせる。体勢を崩した破幻にすかさず、回し蹴りで顎を砕く。

「あがぁぁぁぁ!?」

「押忍!」

 傷一つ無く、両肘を思いっきり引き、声を腹の底から出す彼女の姿は容姿に問わない覇気を纏っていた。

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