fight3:空手部の騒動

 校舎裏の離れの部室には空手部と墨字で書かれた木目の看板が掲げられ、スライド式の引戸を開けると、

「がはっ!」

「おらおら、情けねぇぞ! 何が真っ当な空手をやれだ!」

「俺たちより弱い後輩を虐めて何が悪い! 弱いから悪いんだよ!」

「ふざけるな! これの何処が空手なんだ!」

「うう、ううう…」

 角刈りと無精髭の顧問が屈強だが人相の悪い上級生の集団を率いて、黒髪のショートヘアーと水色の瞳を持ち、丸眼鏡を掛けている下級生を庇う一心を羽交締めで殴り蹴りの応酬を与えていた。

 その光景を目の当たりにした三人娘の内の奈緒はあまりにも非道な行為に対する怒りで居ても立っても居られず、悪漢の前に立ち塞がる。

「何があったの、一心!?」

「すまねぇ…こんな恥ずかしい所を見られてしまって、この空手部の上級生のほとんどは半グレみたいで、顧問の教師もどうやらグルになってるらしくって…お前を誘ったのも、あいつらの悪行を正す為に力を貸してほしっかったんだ…」

「そんな…」

「そう言えば、空手部の上級生が良く後輩や他校の生徒に対して、カツアゲや暴行している噂を聞いたことがあったけど、まさか、本当だったとは。」

 ボロボロになった一心は涙を堪え、必死に立ち上がろうとする。その姿を見た奈緒は怒りを露わに三年生の集団に再び向き直り、構えを取る。

「あんたたち、ふざけないで! 格闘家として、こんな卑劣な行為に手を染めて、恥ずかしくないの!?」

 三年生の集団や顧問はケラケラ笑いながら、罵倒する。

「随分、昔に空手を辞めたお前が言う事か? それとも、お前が俺達と戦う為に復帰しようとするのか?」

「がははは! 道場破りに負けた雌に何ができるんだよ!」

「奈緒! 一心! 呂夢! 貴様らはこのことを黙っておくんだな! こんな弱い屑に構う暇があるなら、勉学に励め! ぎゃははははは!」

 邪悪な悪戯に笑う下衆な年長者、特に教師の方は教育者らしからぬ外道であったことに憤る奈緒、しかし、彼女はそんな彼らをあの頃の道場破りに重ねてしまい、拳に力を入れることを躊躇い、苦心する。

(何なのよ…結局、格闘技なんて大義名分が得られないなら、暴力と変わらないじゃない。あの道場破りもこの空手部も、格闘家はこんな奴ばっかりなの?)

 瞳に涙が溢れそうになった時、赤髪の少女、蓮火は奈緒の前に立ち、上級生や顧問の前に立ちはだかる。

「あなたたちが強いなら、かかって来てください。もし、私が勝てば」

 彼女の表情は今までの活発で、純粋な少女とは違い、湧き上がる怒りの重さが憎悪に近い暗く、重苦しい雰囲気オーラを纏い、瞳に牙のように鋭い闇の眼光を浮かべた。

「貴様は確か、転校生の…悪い事は言わないからこの事を追求するな。」

「おいおい、今度は別のお嬢ちゃんが相手かよ。」

「こいつ、意外と胸があるぜ。もし負けたら、あれで許してやるよ、あれで。ヒヒヒヒヒ!」

 蓮火は重い口を開け、言い放つ。

「性根が臭いから、さっさっとかかってこいって言ってんだよ! 上級生や顧問という肩書でイキりちらすな、三下以下の糞共が!」

 その罵倒は一瞬の静寂を引き起こし、怒号は爆破された。

「てめぇ! 新入のメスガキの分際でしゃしゃり出たと思ったら、調子乗んじゃねぇぇぇぇぇ!」

「殺す! 物理的にも、社会的にも死にやがれぇぇぇぇぇ!」

「てめぇら、相手しろ! このアマ、どうなっても知らんぞ!」

 かくして、鬼門蓮火はこの学校で初めての格闘試合を臨んだ。

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