目覚めたら異世界で国境警備隊の隊員になっていた件。

みやこのじょう

第1話・赤髪の青年は闇に嘆く


 真っ暗な闇の中、誰かがすすり泣く声が聞こえる。声のするほうへと意識を向けると、赤髪の青年が地面に座り込んでいる姿が見えた。


「ねえ、君。だいじょうぶ?」


 思わず駆け寄って話し掛けるが、青年はボロボロと涙をこぼすばかりで答えない。唇を噛み、時折しゃくりあげている。放っておくわけにもいかず、彼のそばに座り、なだめるように何度も何度も背中をさすった。


 青年は僕と同じ二十代前半くらいの年頃に見えた。鮮やかな赤い髪と詰襟の軍服みたいな変わった服装。顔立ちも瞳の色も日本人には見えない。ハーフか、凝り性のコスプレイヤーだろうか。


 しばらくして、青年の様子が落ち着いてきた。涙は止まり、呼吸も穏やかになっている。今なら話が出来そうだと判断し、再び声を掛けてみた。


「君は誰? ここ、どこか分かる?」


 この空間には僕と赤髪の青年しかいない。僕たちの周りだけほのかに明るいけれど、周囲は真っ暗な闇。狭いのか広いのかすら分からない。


──ここは、俺の罪を裁くための牢獄だ


「罪? 牢獄?」


 ようやく口を開いた青年は、なにやら物騒な言葉を呟いた。そして、おさまっていた涙を再びこぼす。


──ごめん、みんな、ごめん


「え、ちょっと。君は一体なにを──」


 謝罪の言葉を繰り返しながら、青年はゆらりと立ち上がる。彼の腕や腹部にはべったりと赤い液体が付着していた。あれは血か。怪我をしているのか。


──俺は、みんなに合わせる顔がない


 そのまま青年は歩き出した。更に暗く深い闇の奥へと、おぼつかない足取りで進んでゆく。


「ま、待って、置いていかないで!」


 ひとり取り残されそうになった僕は慌てて彼の腕を掴んで引き留めるが、触れた途端に意識が途切れた。



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