第4話

ある日のこと、店長から呼び出され、店長室に入ると椅子に座るでもなく立ち尽くしたままで半ば強制的にお願いされていた。


「あのさ、夜勤に入ってもらいたいのだけど、どうかな?」


(え?)

ここで働く条件として、子供達の事を考え、昼間の日勤が絶対条件だった。


「でも、昼だけでも大丈夫と・・・」


「そうなんだけどさ、夜の人数が足りなくて今ギリギリなんだよ。募集しても全然来なくて。昼の人数は十分足りているから、そっちから夜できる人を探しているのさ」


「でも自分は、子供が・・・」


店長は少々脅し気味に、話をかぶせてくる。


「お金必要なんだろう?色々これからも掛かるよ子供育てるって。しかも二人だろ?なんでもやらないと食べて行かれなくなるよ。今の世の中厳しいでしょ。保育園探せば夜間預かってくれるところあるだろうし」


(参ったな。できれば夜勤は避けたい。けど・・・)


痛いところをつかれ、明確に断れる理由も無く、何も言えず黙っていた。


「お店としても、今までだいぶそっちの都合に協力してきたのだから、そろそろこっちのお願い聞いてもらっても罰は当たらないんじゃないかな」


店長室を出ると店長からの言葉が頭の中に残っていた。

すぐにとは言わないからと言ってはくれたものの、猶予は1か月以内だろう。

それまでに、夜間保育をしてもらえるところを探すか、それとも新しい仕事を探すかしなくちゃいけない。

夜間保育の料金も気になるところだったが、何より、夜勤となると、日中子供達のいる中眠らなくちゃいけない。更に小学校入学も迫っている。

小学生になれば保育園のようにはいかないだろう。

考えれば考えるほど不安ばかりが浮かんできて、逃げ出したくなるような恐怖が不意に襲ってきた。

自分の都合などおかまいなしに進んでいく現実が恐ろしくて仕方がなかった。

誰かに救いを求めたかったが、頼れる人など見当たらず、自分で何とかしなくちゃいけなかった。

わかってはいるけど、何をどうしたらいいのかすぐには浮かんではこなかった。



神様はその魂を見ていた。

見る影もないほどに輝きを無くし、今にでも壊れてしまいそうな、哀れなその魂を。

自らに課したその課題の中で、次々と湧いてくる困難に藻掻き苦しむその姿は、わかっていても黙って見ているのは辛いことだった。

諦めてしまっても致し方ないという思いさえも芽生えてきてしまう。

この課題は、魂自らの力で超えなくてはならない。

そう約束して地球にきたのだから。

しかし、人間の中に入った魂は自らの意思で人間を動かすことができない。

人間には人間の意識があり、魂の意思とは無関係に様々な外的要因によって変化をしていく。

心に閉じ込められた魂は、本来の道を歩むために時に根気強く、更には忍耐強く人間の意識に気付かせなくてはならない。

それは容易な事ではなく、殆どの魂がここで躓いてしまうのだった。

この魂もまた例に漏れず、その壁にぶつかっていた。


神様はそれぞれの魂をサポートをするよう天使たちに指示をしていた。

魂として生きていく本来の道に導くために、天使たちは沢山の気付きを散りばめるようにと。

その気付きを受け取ることができれば、逸れた道から戻ることができる。


そしてもう一つ、もっとも重要なそれを神様は待っていた。

輝きを失ってしまったその魂をもう一度輝かせられるそれを、今か今かと神様は待ちのぞんでいたのだ。

天使よ、急いでくれと神様は強く手を握りしめるのだった。


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