面倒くさがりな鳥野さんのこだわり

紗久間 馨

動画撮影

鳥野とりのさん、本日もよろしくお願いします」

「今日もいい感じにやっていこうね」

 動画サイトに投稿する料理動画の撮影にため、鳥野と酒井がキッチンに立つ。エプロンを身につけた鳥野が料理を担当し、酒井さかいが撮影と編集を担当している。SNSで知り合った二人が、半年ほど細々と続けている料理チャンネルだ。


「今日は鶏のささみと梅干しを使って、ダイエット中におすすめな一品を作るよ」

 鳥野がポリ袋に入った二本のささみ肉と、小皿に載った一粒の梅干しをテーブルに置く。

「ささみは高たんぱく質で低脂質な食材だね。梅干しに含まれているクエン酸は疲労回復の効果が期待できるよ」

「筋トレとの相性が良さそうです」

「そうだね。でも、たんぱく質も塩分も摂りすぎると逆に体に悪いから注意が必要で、今回の分量はおおよその摂取目安だと思ってほしい」


「ささみがポリ袋に入っていますね」

「昨晩から塩麹につけておいたんだよ」

「柔らかくするために、ですか?」

「そうだよ。全体的になじませる程度の少量でいいんだ。まず、これを茹ででいくね」

 鍋で沸騰している湯に鳥野がささみを投入する。

「塩麹は洗い流さないんですか?」

「お湯に入れるんだからいいんだよ」

 湯で洗うのだと言うように、鳥野は鍋の近くで手をひらひらと動かす。

「なるほど。では、ささみをレンジで加熱する場合には洗うのがいいですか?」

「そうだね」

「というか、鳥野さんは面倒くさがりなのに、レンジってあまり使いませんよね?」

「だってレンジのこと信用してないから」

「はい?」

 酒井が言葉を続けようとするのを、鳥野は手のひらを向けて制する。

「レンジで加熱するのが楽な人はそうすればいい。さて、お湯が再び沸騰したら、弱火にして三分くらい茹でるよ」

 鳥野は火加減を調節する。


「ちょっと、レンジを信用していないとはどういうことですか?」

「食品のパッケージに加熱方法が書いてあるよね。あれのとおりにやっても温まってないことってあるでしょ?」

「まあ、たまにそういうこともありますけど」

「鶏肉はしっかりと火を入れたいから。鍋で加熱するのが結局のところ早いんじゃないかと思うわけ」

「うーん・・・・・・。ですね。鶏肉が生なのは良くないですからね」

 酒井は納得していない様子だ。

「そう。三分茹でたら、余熱で十分。ゆっくりじっくり熱を入れることで、鶏肉が柔らかく仕上がるんだ」


「茹であがったささみをほぐしていくよ」

 鳥野は粗熱を取ったささみを手で細かくして、盛り付け用の器に乗せていく。

「そして、梅干しの種を取って・・・・・・」

 梅干しを指先で潰し、ささみの上に置いた。

「これで完成だよ」

「あの、梅肉和えにはしないんですか?」

「こっちの方が見た目が良いからね。いやあ、試作がどうにも上手くいかなくて。自分で食べるだけなら構わないけど、これは人に見てもらうために作っているだろう?」

「へえ、鳥野さんって意外とこだわり持ってやってるんですね」

「そうだよ。せっかく撮影するのだから、できることはやりたいんだ」

「そこまで言うなら、梅干しは包丁を使った方がいいのでは?」

「一粒の梅干しのために包丁とまな板を使いたくはないんだよ。洗い物が増えるじゃないか」

「じゃあ、ペースト状で売っているものもありますよね?」

「それを使うのもいいだろう。ただこの梅干しが好きだから使っているというだけなんだよ」

「なんですか、それ。面倒くさがりなのにこだわりが強い。鳥野さんって変な人ですよね」

「嫌ならコンビを解消するかい?」

「しませんよ。そういうところが好きで一緒にやってるんですから」

「ははっ。そう言う酒井さんも変わり者だね」

 二人は楽しそうに笑い合う。

 そして、次の動画の内容について話すのだった。

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面倒くさがりな鳥野さんのこだわり 紗久間 馨 @sakuma_kaoru

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