面倒くさがりな鳥野さんのこだわり
紗久間 馨
動画撮影
「
「今日もいい感じにやっていこうね」
動画サイトに投稿する料理動画の撮影にため、鳥野と酒井がキッチンに立つ。エプロンを身につけた鳥野が料理を担当し、
「今日は鶏のささみと梅干しを使って、ダイエット中におすすめな一品を作るよ」
鳥野がポリ袋に入った二本のささみ肉と、小皿に載った一粒の梅干しをテーブルに置く。
「ささみは高たんぱく質で低脂質な食材だね。梅干しに含まれているクエン酸は疲労回復の効果が期待できるよ」
「筋トレとの相性が良さそうです」
「そうだね。でも、たんぱく質も塩分も摂りすぎると逆に体に悪いから注意が必要で、今回の分量はおおよその摂取目安だと思ってほしい」
「ささみがポリ袋に入っていますね」
「昨晩から塩麹につけておいたんだよ」
「柔らかくするために、ですか?」
「そうだよ。全体的になじませる程度の少量でいいんだ。まず、これを茹ででいくね」
鍋で沸騰している湯に鳥野がささみを投入する。
「塩麹は洗い流さないんですか?」
「お湯に入れるんだからいいんだよ」
湯で洗うのだと言うように、鳥野は鍋の近くで手をひらひらと動かす。
「なるほど。では、ささみをレンジで加熱する場合には洗うのがいいですか?」
「そうだね」
「というか、鳥野さんは面倒くさがりなのに、レンジってあまり使いませんよね?」
「だってレンジのこと信用してないから」
「はい?」
酒井が言葉を続けようとするのを、鳥野は手のひらを向けて制する。
「レンジで加熱するのが楽な人はそうすればいい。さて、お湯が再び沸騰したら、弱火にして三分くらい茹でるよ」
鳥野は火加減を調節する。
「ちょっと、レンジを信用していないとはどういうことですか?」
「食品のパッケージに加熱方法が書いてあるよね。あれのとおりにやっても温まってないことってあるでしょ?」
「まあ、たまにそういうこともありますけど」
「鶏肉はしっかりと火を入れたいから。鍋で加熱するのが結局のところ早いんじゃないかと思うわけ」
「うーん・・・・・・。ですね。鶏肉が生なのは良くないですからね」
酒井は納得していない様子だ。
「そう。三分茹でたら、余熱で十分。ゆっくりじっくり熱を入れることで、鶏肉が柔らかく仕上がるんだ」
「茹であがったささみをほぐしていくよ」
鳥野は粗熱を取ったささみを手で細かくして、盛り付け用の器に乗せていく。
「そして、梅干しの種を取って・・・・・・」
梅干しを指先で潰し、ささみの上に置いた。
「これで完成だよ」
「あの、梅肉和えにはしないんですか?」
「こっちの方が見た目が良いからね。いやあ、試作がどうにも上手くいかなくて。自分で食べるだけなら構わないけど、これは人に見てもらうために作っているだろう?」
「へえ、鳥野さんって意外とこだわり持ってやってるんですね」
「そうだよ。せっかく撮影するのだから、できることはやりたいんだ」
「そこまで言うなら、梅干しは包丁を使った方がいいのでは?」
「一粒の梅干しのために包丁とまな板を使いたくはないんだよ。洗い物が増えるじゃないか」
「じゃあ、ペースト状で売っているものもありますよね?」
「それを使うのもいいだろう。ただこの梅干しが好きだから使っているというだけなんだよ」
「なんですか、それ。面倒くさがりなのにこだわりが強い。鳥野さんって変な人ですよね」
「嫌ならコンビを解消するかい?」
「しませんよ。そういうところが好きで一緒にやってるんですから」
「ははっ。そう言う酒井さんも変わり者だね」
二人は楽しそうに笑い合う。
そして、次の動画の内容について話すのだった。
面倒くさがりな鳥野さんのこだわり 紗久間 馨 @sakuma_kaoru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます