第二話 初めて読んだ時の衝撃

 私がこの本に出会ったのは、大学一年生の頃の授業でビブリオバトルと言うものをしたのがキッカケである。

 当時、ほとんど読書をしていなかった私(漫画やライトノベルはよく読んでいたが)は、相手に紹介できる本がないことに気がついて慌てて本屋に寄り、聞いたことのあるタイトルで面白そうだと思ったこの本を手に取ったことを覚えている。

 名作と呼ばれるような小説を、それまで読んだことのなかった私にとって、その内容はあまりにも美しく、衝撃的で、かつ人間とはなにか、幸せとはなにかを改めて考えさせられるものだった。

 徐々に知能が上昇して、天才になっていくチャーリイの日記風の視点を通して展開されるストーリー、その中で描かれるチャーリイの喜びや絶望、今までなんとなく想像していた「天才になる」というお伽話との大きな違い、そのどれもが新鮮な視点を持って私に刺激を与えてくれた。

 それらは、物語としての刺激を通り越して現実を生きる私の価値観にすら影響を与えたといっても決して過言ではないと言える。

 チャーリイの知能レベルに合わせた文体で、徐々に広がっていくチャーリイの視野に合わせるかのように研ぎ澄まされる文章、増えていく情報、まるでチャーリイの受けた実験を追体験しているかのような気分を味わえ、まるで実体験を聞いたかのように共感を覚えさせられる力強さを感じる文章だった。

 この本を私風に定義づけるとしたら、誰しもが、一度は考える「もしも自分が天才だったらな」という妄想に、残酷なほどのディティールをもって懐疑を投げかける本、といったところだろうか。

 たぶんみんな1度は聞いたことはあるけど、なかなか触れる機会の無さそうなSF小説の名作「アルジャーノンに花束を」、もし興味が湧いていただけたのなら是非読んでいただきたい。

 読み終えた頃には、あなたの中の「天才」に対する霧がかかってぼやけたような偏見が、少しだけ鮮明に、今までとは違う視点をもって見えるようになるかもしれない。

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