第15話 右に左にお姉さん
「このこのぅ~! ういういしい奴よのぅ」
などと言いながら、
美人過ぎるがちょっと個性的なお姉さんである草壁新葉さん。そんな彼女とデートをしているわけだから腕を組んでくることに何の違和感も無いが、何だか慣れない。
新葉さんから期間限定でお付き合いをして欲しいと言われてすぐ、ちょうど土日になったこともあってすぐに会うことになった。
このことは桃未に知らせていないし、桃未も牛乳プリン事件以降は姿を見せなくなったこともあってその隙に……っていうと語弊があるけど、新葉さんの気が済むまで付き合うことにした。
「新葉さんは今まで彼氏……は?」
「フハハハハハ! 可愛いことを訊いてくるのだな! それこそ年下くん冥利!」
まだほんの少ししか話していないが、どうやら新葉さんは変わった言動によって相手を見極めようとする人らしい。
かなり美人さんなのに男が逃げるとか言ってたし、多分この言葉遣いが問題なんだろうなと予想出来てしまう。
「さぁて、我がオトコの悠真! どこ行こうか?」
彼氏のことははぐらかされたけどいいか。
「新葉さんどこか行きたいところは?」
「ん~……悠真が連れていってくれるんじゃないの?」
大してお金も無いし、どこに行くとか考えてなかったりする。
「いやぁ、俺は新葉さんが期待するような行動力は無いからね」
「むぅ? もしや試されてる!?」
新葉さんを試しているわけでもなく、俺自身自分で動くタイプでも無いからこういう時は本当に困る。
桃未の場合はほぼ自然に連れ回されているわけだし。
「そうじゃないけど俺はこんな感じなんで、新葉さん主導でいいですよ」
「ぬぅぅ……わたくしが悠真のご主人様になるわけだね!?」
「ま、まぁ、そうなるかなとは」
この反応を見る限りだと、新葉さんは自分から動くタイプじゃないってことだろうか?
幼馴染は俺と同様に年下みたいだけど、その人の方が積極的だった可能性が高いとすれば俺は真逆……。
「悠真を動かしていたのは諸積ちゃんだったりする?」
「どっちかというとそうなのかなと」
俺の腕からいったん離れ、新葉さんは何やら考え込み始めている。新葉さんは特に行きたいところがないってことなんだろうけど、どうするつもりなんだろうか。
「悠真! とりあえず悠真の右腕はわたくしがキープするぞお!」
「へ?」
意味不明なことを言い放つと同時に、新葉さんは携帯電話で誰かに電話をかけだした。
――それから四十分後。
「あ、あのぅ、草壁センパイ……あたしも悠真くんと……いいんですかぁ?」
「よくってよ! こう見えてもわたくしは度胸が大きいの!」
それを言うなら度量が大きい――の間違いなのでは。
「そ、それなら、えっと悠真くんの隣を失礼して~……」
「お待ち!! 悠真の右手はわたくしの場所って相場が決まっているわ! 諸積ちゃんは左手! 異論は認めなくってよ! オホン」
「はぁい~」
……なるほど、それでキープとか言っていたわけか。
両腕に年上のお姉さん……それもどっちも年下の俺に甘えてくるなんて、さすがに想定外すぎる。
「ねえねえねえ、悠真くん」
「何?」
「ツレない返しをしてくるなんて、お姉さんは悲しい。悲しくて涙が……うぅっ、グズッ」
「泣くな! いや、泣くほど塩対応したつもりはないぞ……」
何て恐ろしい。これも桃未の技の一つでもあるとはいえ。
桃未のいい所はふわふわでほわほわっとした第一印象と、甘い香りを漂わせて話す点だ。それなのに涙まで加わっては、もう何も言えなくなる。
「ふむぅ、悠真の塩対応……。何だか懐かしい響きだなぁ」
「え? 塩対応が?」
「おおっと~! お姉さん、ついつい口を滑らせちゃったよ。聞き流していいぞえ」
「……俺は塩対応するつもりはないんで、新葉さんは甘えていいですよ」
「おっほ!?」
新葉さんが顔を真っ赤にして照れているな。ストレートに言い過ぎたか。そうかと思えば桃未の奴も顔を赤くしてるし、何なんだ?
「それはそうと、諸積ちゃん! どこに連れて行ってくれるんだい?」
「え、え~とぉ……どこか休めるところかなぁと思ってたりして~」
「オホホ! 怪しい空間へ行くつもりなんだね?」
「えぇっ!? ち、違いますよぉ」
バシンバシンと桃未の肩を叩きながら、新葉さんが俺を見ている。どうやら変な勘違いをしているようだ。
「うふふふふ……。よござんす! 美しすぎるお姉さんたちに全てを委ねるといいさ! さぁ、諸積ちゃん! レッツゴー!」
「い、行きますぅ」
不思議なお姉さんたちがお互い密かに対抗心を燃やしながら、俺をどこかに誘って行くようだ。
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