第14話 乗り換える?それともされたい?

 桃未をナンパから救ったその日、桃未とくだらないことでケンカをしてしまった。その中身は――。


 俺にとって些細なことだったのだが、まさかの牛乳プリンが原因だった。


「食べたかったよぉ……しくしく。何でぇ? どうしてナンパしてきたくせに食べさせてくれないのぉ? お姉さん悲しいよぉ」


 この声がどこから聞こえてくるかというと、実は俺の家の浴室内からだったりする。


「ちくしょうぉうぉうぉ!! 悠真くんを愛してるってゆった! ゆったのにぃぃ~どうしてあたしに食べさせてくれないのさ!!」


 桃未の言い分は、湯船に浸かりながら牛乳プリンを『あ~ん』で食べさせてもらいたい……ということだったが、それは強引すぎた。


 食べさせるのは出来るが、まさか俺の家で風呂に入るなんて思うはずもないわけで。


「くそぉぉぉぉ……何さ! せっかく悠真くんにご褒美をもらおうと思っていたのに」


 俺にとってもある意味ご褒美になってしまうし、今は違う気がする。


「と、とにかく、ご褒美はまた別の機会にやるから!」

「むぅぅぅ。意地悪な悠真くんなんかもう知らないんだから!!」


 俺のことを意識してないからなんだろうけど、そこまで言わなくてもいいだろ。


「俺のせいにしないでくれよ! とにかく、さっぱりしたら今日は大人しく帰った方がいいよ」

「アホ~! 悠真くんのどアホ~!!」


 俺の気持ちなどお構いなしな桃未に何となく腹が立った。


 そんなことがあり――桃未が迎えに来なかったその日、美人すぎる年上お姉さんの新葉さんが桃未に代わって? 俺に会いに来た。


「オッホッホ……じゃなくて、コホン。お久しぶりですわね、悠真。よくもわたくしと会ってくれる気になったわね!」

「……え? 駄目でした?」

「ち、違うの! すさまじく嬉しくて、上手く言えないの。ごめんなさいね」

「あぁ~」


 ちょっと……いや、桃未よりもさらに不思議な感じがする新葉さんではあるが、嫌な感じがしないから気にはならない。


 それに新葉さんは現在絶賛失恋中で、落ち込んでいる姿が見てとれる。そういう人には優しく接する方がいい。


「ところで、悠真は進学するのかしら? それとも?」

「新葉さんがいる大学に入る予定ですよ」

「まぁっ! まあまあまあ! それはつまり、わたくしをもらう予定なのね?」

「そんな、とんでもないですよ。俺と新葉さんじゃ釣り合わないです」


 仮恋人のフリはいいけど、本当に付き合うとしたらあまりにも釣り合わなすぎる。


「そんなことないわ。悠真が良ければ、あの子からわたくしに乗り換えても良くってよ! もしくは乗り換えされてみたい……」

「……え?」


 幼馴染にフラれたって聞いてるけど、やはり忘れられなくて彼氏とか作らない感じなんだろうか。


「ど、どう? わたくしならお買い得! 悠真が年下でも全然問題ないし~……あの野郎……じゃなくて、あいつも年下だったから気にしないわけだし……」


 乗り換えか。桃未とはそういう関係でも無いんだけど、この人から見たらそう見えるってことなんだろうな。


 桃未とは強制力のない彼氏のフリだし、新葉さんの気が済むまで付き合ってもいいのかもしれない。


「乗り換えとかにはならないですけど、付き合いますよ! 俺じゃあその幼馴染さんに敵わないかもですけど」

「えぇ!? マ、マジで~? オホン、本当なのかしら?」

「期間限定でよければ……」


 さすがに本当に付き合うわけにはいかないだろうけど、この人には多分冷却期間が必要のはず。何より桃未よりも放って置いたら駄目な気がしてならない。


「つまり悠真と付き合うわたくしは初回限定なわけね?」

「いや、そういうわけじゃ」


 言動が愉快な人なのは理解出来た。


「よござんす! わたくしもいい加減大人にならなきゃいけないものね。ふふん、いいわよ、それで。わたくしに恋を教えてちょうだい!」

「……そんな大層なもんじゃないですけど、よ、よろしくお願いしま――」


 俺がそう言おうとすると、新葉さんの人差し指が俺の唇に押し当ててきた。


「んぷっ」

「こらこら、駄目だぞ! 彼女さんに敬語なんて必要ないんだぞ?」

「あ……うん」

「うぬん、よろしい! それじゃあこれがわたくしの連絡先ね。また連絡するから、その時はもっと激しくよろしくお願いね?」

「ま、また」


 激しくって……一体何をするつもりなんだろうか。


 桃未に言うとさらに悪化しそうだし、このことは黙っておこう。ただでさえ牛乳プリンでケンカしてる最中だし。


 新葉さんを見送った後、どこかに寄り道しながらその場を後にした。


「ぬぅぅ……まさか草壁先輩が悠真くんに最接近するなんて……うかうかしてられないよぉぉ」

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