第13話 ナンパされてみたい! は?
桃未とあんずとのバトルにもならないバトルは、精神的に消耗した。
しかし泣きそうになっていたあの日以降、桃未はわずかながら俺に積極的に近づくようになった。
それも間違った方向へ。
「ねえねえ悠真くん」
「何ですか?」
「悠真くんはさ~、やっぱりお姉さんがモテモテな証拠が無いと本気にならないタイプなんでしょう?」
何を言うかと思えば、それはとんでもなく歪んだ価値観だ。
俺は一言もそんなことを言った覚えは無いんだが、あんずが余計なことをしたせいで桃未の思考がおかしな方に向いてしまった。
「いやぁ、悠真くんがまさか同級生の女の子にあんな遊ばれ方をされていたなんて……お姉さん、君の将来が心配になっちゃったよ~」
「うん。で?」
「なので、桃未さん本気出す!」
「…………それがナンパ?」
「あたしじゃないよ。ナンパするのは他の男の人だよ~」
桃未が何を言いたいかというと、俺よりも自分自身が本気じゃなかったが為に俺が他の女子に目移りしてしまう……という判断を勝手に下したらしく。
単なる幼馴染だけでは俺が桃未の気持ちに気づいてくれない――ということらしい。
桃未が俺に甘えてきてる時点で気付いてるんだけどな。
「――というわけだから、悠真くんはここぞという時にだけ出現しておくれ!」
「出現て」
俺をモンスター扱いしてる桃未もどうかと思うが、とりあえず見守ることにする。
桃未が言うには知らない男の人が声をかけてくる場所は、大体大学の最寄り駅周辺らしい。特に多いのが、軽そうな二人組が近寄ってくるとか。
「おぉぉ! そこの美人さん!! オレたちと遠くのるるポートに行かないっすか?」
駅の近くは人通りが多いからすぐに声をかけられるだろうと予想していたけど、さっそくだな。
桃未の言うとおり確かに軽そうな二人組だ。
「いえ、あたし、そういうの面倒なので……」
おっ。意外と冷静に断れているじゃないか。
「オレっちは下道って言うんすけど、お姉さんが良ければ全部タダでいいっすよ! 相方の上田っちもすっげえ頷いてるんで! どうっすか?」
「どうでしょうね……」
「いいじゃないっすか~! お姉さんが頷いてくれたら、それだけでタダで飲み食い出来るんすよ?」
やはり桃未は色んな意味で人気者なんだな。しかし声をかけてきたのは心が入ってない男と、一見すると害が無さそうな男か。
しかも何でわざわざるるポートへ誘うんだ?
ここから結構遠いぞあそこは。
それにお姉さん扱いしてるけど、見た感じあの二人組の方が年上なんじゃないか?
「――うっ?」
何やら可愛い手招きをされている気がする。どうやら俺を助っ人に呼んでいるようだな。
『おいで』と言っていると口元判断したのでそこに近付こうとすると、さらに口パクで「悠真くんがあたしをナンパしてくれ!」などと言っているように見えた。
軽そうな二人組ではあるけど、俺よりは多分強そうだし怖さもあるのに。
でも俺がやるしかなさそう。
「そ、そこの! 姉ちゃん!! お、俺と牛乳プリンを食べないか?」
「まぁまぁ! 何て素敵なお誘い! 喜んで~」
何て苦しい誘い文句なんだ……。
「は!? マジっすか! まさかの年下男子がよりにもよって牛乳プリンて!」
「……下道っち。牛乳プリンには勝てそうにない。今日は諦めた方がいい……」
「上田っち、マジ? むぅ……仕方が無いっすね。いつも暇そうにしてるあの人を誘うしかないっす……」
二人組はどうやら早々に桃未を諦めたようで、どこかにいなくなっていた。
「おほほ……、牛乳プリンはお代わりが可能なの?」
「出来ないな」
「それでもいい! 悠真くんがあたしをどうしてもナンパしたいっていうなら従うだけだぜ!」
「……じゃあ、それでいいよ」
「よきよき」
どうやら桃未は、二人組がすでにいなくなっていることに気づかずに変な芝居を続けているようだ。
「我が愛しの悠真くんがあたしを……むふふ」
「まさかと思うけど、毎回俺をダシに使うつもりじゃないよね?」
「悠真くんがダシ? 試したことないけどどんな味が出るの?」
「出ません! と、とにかく駅前カフェのトドールに行くよ」
これ以上会話を続けると変になるのは間違いない。
「悠真くん、愛してるぜ!」
「……それはどうも」
ナンパされてみたいからナンパしてくれに代わって、結局こうなるのか。でもまぁ、桃未がモテモテなのはよく分かった。
あとは俺とどうなりたいかを知るだけだな。
「悠真くんは最高だぜ~! あたしは負けないぞ~!」
「……誰にだよ」
「悠真くんに近づく人全てさ!」
よく分からないけど、桃未がいいならいいや。
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