第10話 いぢめる?orなぐさめられる? 

「44、70、56、65、86……うっわ~悠真のそれ、ひどくない?」

「誰かと思えば……勝手に見るなよ、あんず」

「見たくなくても机に広げられたら見るっての!」


 美人女子大生の新葉わかばさんと桃未と三人で会って話をする――という昨日の話は、新葉さんの連絡がつかなかったことで流れた。


 俺の予想では、新葉さんをフったとされる幼馴染に自慢しに行ったのではと予想。桃未は気合いを入れていつもより大人びたメイクをしたが、新葉さんが見つからなかったことに疲れ、俺とどこかに行く気力もなくすぐに帰ってしまった。


 そして週明け月曜日、先週のテストの結果が返ってきたわけだが。


 俺に話しかけてきたのは同じクラスの北向きたむかいあんず。こいつとは入学から今までずっと同じクラスだったせいか、越後よりも話す機会が多い。


「お前はどうなんだよ?」

「悔しい思いをしたいなら見せるけど?」

「……いらない」

「だと思った。っていうかさ、悠真の成績下降の原因って年上の色香だろ?」


 何を言うかと思えば……。


「何のことだ?」

「星里香に聞いたよ? 公園で年上の女子大生といちゃついてたって。だから星里香にフラれんじゃないの?」

「それは違うぞ。あいつが勝手に勘違いして自然な流れで別れただけだ!」


 あんずは桃未が俺の幼馴染だということはもちろん、同じ学校の先輩だということを知らない女子だ。運動部で忙しかったせいもあるが。


 しかしあんずと星里香は、2年の時に同じクラスだったことで仲がいいらしく俺とのこともよく聞いているのだとか。


「でも星里香にフラれたことに変わりなくね? なぁ、結城」


 あんずだけかと思いきや、また厄介な野郎まで参戦してきたな。


「……ちっ、割り込んでくるなよ、笹倉」

「星里香の親友としては一応味方しとかねーとな!」

「親友? 男のお前がか? ただのパシリじゃなくて?」

「いいんだ、そういう細かいことは。オレが好きで動いてるからほっとけ!」


 俺のクラスには厄介なことに、元カノ星里香の自称親友である笹倉と三年間ずっと同じクラスのあんずがいて、暇になると俺にちょっかいをかけてくる。


「でも悪い気はしない……と」

「そりゃそうだろ。何せお前が付き合ってたことも今でも幻だと思ってるからな!」


 笹倉の言うとおり俺と星里香が付き合っていたのは何だったのか、真相は闇の中に葬られたままだ。


「……で、星里香から聞いた女子大生の話はマジなの?」


 せっかく笹倉の話で紛れたのにまた掘り返すのか。


「本当だ。いちゃついてたわけじゃないけどな」

「ふーん? じゃあ付き合ってるわけじゃないんだ?」

「……さぁ」


 桃未とは彼氏のフリで、新葉さんはお試しの付き合い。新葉さんはまだ何とも言えないけど、誰かと正式に付き合ってるという感じではないんだよな。


 特に新葉さんに関しては美人なのに残念すぎる言動が備わっていれば、桃未の方が可能性があると言える。でも肝心の桃未はそこまでじゃなさそうにも見えるからはっきりとしてない。


「【いぢめる? それともなぐさめられちゃう?】……と」

「……って、おいっ! なに勝手にテスト用紙に落書きしてんだよ!」


 俺の素っ気ない返事が気に入らなかったのか、あんずが消えないペンで俺のテスト用紙に変なことを書き込みしていた。


「笹倉、お前も何か言ってくれ――」

「オレはお前の救世主じゃねえからな。あとは二人で話し合え!」

「ちっ、くそ」


 越後はダチだが、笹倉は単なるクラスメイトで星里香側。だからといってあんずがしたことに対して越後が助けてくれるとは限らないけど。


「何だよ? その二択は」

「どっちかを希望してもらおうかなと」


 どっちにしてもあんずにいじられるのは分かり切っている。しかしどっちも選びたくない。


「いぢめる……ってのは?」

「星里香と一緒に悠真をいぢめちゃおうかなあと」

「却下だ」


 出来れば星里香とはあまり関わりたくないし、顔を合わせたくないのが本音だ。


「じゃあ……なぐさめられちゃいますか~?」

「出来ればそれがいいな。何をどうするかは知らないけど」


 ……などと言ってる間に、休み時間が終わっていた。


 放課後になればまたいつものように桃未が迎えに来るだろう……などと思って教室を出ようとするが。


「ちょっ、どこ行くつもり?」

「何だよ、あんず。まだ俺に用があるのかよ」


 教室を出ようとしたらあんずに腕を掴まれて引き留められた。何も意識しないとはいえ、目立つ行動は勘弁して欲しいところだ。


「どうせあんたは暇でしょうが! だから……」

「あん?」

「わたしに付き合ってもらおう!」

「はぁ? 何でお前……って、星里香がこっちに向かって来てるように見えるけど、気のせいじゃないよな?」


 俺の焦りにあんずは薄笑いを浮かべている。


「迷う余裕なんて無いと思うけど?」

「くっ、どこにでも連れていけよ、マジで」

「りょーかい!」


 桃未のいつものルーティンから離れるかのように、俺はあんずの手に引かれて教室を出た。

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