第9話 残念な美人さんが現れた件
桃未から謎のメッセージが届いた。
その内容は――
「大学の二つ上の先輩がどうしても悠真くんと話がしたいんだって! あたしは行けないから悠真くん一人で行ってきてね」
――というもの。
何故その先輩が俺のことを知っているのか。それはもちろん、何度か大学構内に行った時に桃未とのツーショットを目撃されていたからだ。
直接声をかけられたわけじゃなかったものの、遠目で見てもかなり美人さんだったことだけは覚えている。
そんな美人さんが俺に用があるというのであれば、会いに行かない理由は無い。
少し場違いながらも土曜日ということで大学構内もそんなに人がいるわけでもなく、緊張することなく待ち合わせに指定された2号館のカフェで待つことに。
「結城悠真君?」
「あっ……はい。えっと……」
「初めまして……でもないかしら? わたくし、
とびきりの美人さんが来たかと思えば、どこの令嬢だよと突っ込みたくなる言葉遣いの女性が俺の前に姿を見せた。
凄い肌が綺麗な人だな。小顔だし鼻と口の距離も近いし、鼻筋も通ってまるで桃未を少しだけ大人びさせたような……。
こんな人が何で俺を?
「く、草壁さん……って呼んだらいいんですか?」
「いいえ、わたくしのことは新葉って呼んで頂けたら嬉しいざます」
「ざ、ざま!?」
俺をからかいに来たわけないか。
「コホン。面白くなかったかしら?」
「い、いえ……」
桃未とは違う感じっぽいが、どうも似た気配を感じる。いくら何でも冗談だと思われるが、若干すべってるんだよな。
「キミのことは悠真君? それとも悠真……カレシになるんだから悠真でいいわね」
「……へ? カレシ?」
会って早々に何をほざいてるんだこの人は。
「諸積ちゃんから何も聞いて無いのかしら?」
「俺と話がしたいってだけなら……」
「単刀直入に言うわね! 悠真! あなた、わたくしと付き合わない?」
「……え、何故?」
ほぼ初対面でどういうことなんだこれは?
凄い美人さんなのは確かだけど、突然言われても困るぞ。桃未もこの人が俺に何を言うのかまでは知らないだろうし、そもそも俺に彼氏のフリをさせてるわけだし。
「何故って、だって……」
「だって?」
何か顔を下に向けて力を溜めてるように見えるな。
「だってだって、悔しいんだよぉぉぉ!! あの野郎は最強美少女と仲良くしてやがるし、新葉さんだって恋をしたいんだよぉぉぉぉぉぉ」
――これは……誰かにフラれての態度か?
しかも本性をあっさりと出しちゃってるし、何か可愛い人だな。
「あ、あの~?」
「はっ!? し、失礼しましたわ! そんなわけで、結城君! お願ぁい! 新葉さんとお試しでいいので付き合ってくだされ」
「でも俺、桃未さんの彼氏――のようなことをしてますけど」
「でもカレシじゃないんでしょ?」
「まぁ……」
桃未からは彼氏のフリ、そして草壁さんはお試しカレシ?
どっちもあやふやな関係になりそうなんだけどいいのだろうか。一つ上と二つ上だからそんなに気にする差でも無いけど、でもなぁ。
そんなどっちつかずな俺に仮の彼女とか、果たしてそれはいいのだろうか。
「え、でも俺はまだ高3ですよ? しかも受かったら同じ大学に通うことになるんですけど、その時の方が会いやすくなるんじゃないですか?」
「その時はほら、諸積ちゃんとよろしくやってる可能性があるかもしれないじゃない? そんな時に構内で会ったら……う、うぅぅ……」
う、嘘だろ?
まさかここで大号泣するのか?
「わ、分かりました。俺が釣り合うのか自信ないですけど、新葉さんとお試しで付き合いを――」
「うおぉ!! ありがとありがとありがとぉぉぉ! 連絡先とかはまた後で! そんなわけだから、先に帰らせて頂いてもよろしい?」
「ど、どうぞ」
激しい美人さんだった。
しかしあれだけのやり取りであの人と俺が付き合うことになるのか?
とりあえず桃未には隠さずに報告しとかないとな。
「良くな~い!! あたしは許可しませんよ、そんなの!」
「や、桃未に許可を求めてないんだけど……」
「そんな大事なことを隠そうとするなんて、お天道様共々、桃未さんは許しませんぜ?」
どうやら桃未は俺が草壁さんに変なことをしないように、こっそりとついて来て覗いていたらしい。
いくら人が少ない土曜日でも、そんなことをしているだけで桃未は目立ってしまうというのに。
「でも俺、桃未の彼氏のフリだし? お試しででも付き合うくらい、良くないか?」
「認めんぜ、あたしは」
「理由を聞こう」
「悠真くんはあたしの彼氏のフリをする義務……いや、運命があるのだ! ここで勝手にギブアップをされるわけにはいかんのですよ。分かるかね、あたしの心の苦しみが!」
何だよ、義務とか運命とか。
「分からん」
心の苦しみって言うなら俺の方なのでは。
「ノ~オ~~~ォ! ダメダメだってば! 愛しき悠真くんよ、お姉さんからの一生の――」
「一生をあとどれくらい?」
「はぅぅ……嫌だぁぁ!!」
見ていて何かいたたまれなくなる。桃未は確かに綺麗で個性豊かで、そして何故か姉気取りをするが、放っておくわけにもいかないところがあるんだよな。
しかし彼氏のフリをするという何のメリットも無い状況を果たしていつまで続けねばならないのか、俺は悶々と考えなければならない。
「でもほら、俺と会う頻度が高いのはどう考えても桃未だよ? 新葉さんの方も3年生なら就活で忙しいだろうし、お試しはお試しで終わるんじゃないかな」
「そうなのかなぁ?」
「そ、そうだと思う……」
俺の返事を聞いて速攻でいなくなったし、もしかしたら冗談だったのかもしれないし、桃未がそこまで心配することはないだろ……多分。
「ん~……でも新葉先輩は幼馴染にフラれた人だし、お試しで気が済むならいいのかなぁ」
あんなに美人さんなのに幼馴染にフラれたのか……むぅ、それは。
「とりあえず悠真くん」
「ん?」
「明日一緒に新葉先輩に会いに行こうよ」
「え、マジ?」
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