鶏和え酢定食

木曜日御前

ラジオネーム:無職やめたい


 DJソリャナイダロさん、こんばんは。

 いつもラジオを聴いて、元気と笑いをもらってます。

 今回の募集テーマが「変わった料理」ということで、どうしても投稿したいエピソードがあり、初投稿させていただきます。


 実は七月にあった、ソリャナイダロフェスに友達と二人で参戦しました。

 ライブが十五時開演だったので、どうせなら昼食をどこかでと思ったので、乗り換えの東京駅でお店を探したんですよ。

 ただ、やはり土曜日の昼間とあって、駅地下は殆ど混んでいたので、少しばかし離れようと日本橋の方へと行きました。


 土曜日ですが休日出勤のサラリーマンも多く、当時バイト先が潰れて無職だった私は、少しばかり肩身が狭かったものです。

 それに加え、あの日差しに熱さ。塩分やら水分やら、汗が滝のように流れました。

 そんな風に汚い男二人がぶつくさ言いながら、古びた店が並ぶ路地を歩く中、奥の方に一軒の昼営業をしている居酒屋を見つけたんですよ。


 外には、ランチメニューが書かれた紙が貼られており、店も並んでなかったので、友人とメニューを覗き込んだのです。


 私は、そこでとある料理と初めて出会ったのです。


鶏和え酢とりあえず定食」


 もう、私は心を奪われてしまいました。「なんだ、この声に出して読みたい日本語は」と。それは友人も一緒だったらしく、すぐに店の暖簾を潜りました。


 店内に入ると、以外と客席は埋まっており、少し腰の曲がったレディがカウンター席へと案内してくれました。


 勿論注文は、「鶏和え酢とりあえず定食」。もうウキウキで注文しました。


鶏和え酢とりあえず二つですね」と復唱されて、夏の熱さにライブ前ということで、どんどん楽しくなってしまいました。

 また、お盆二つを持ちながら、「鶏和え酢とりあえず、お待たせしました~」なんて言うものですから、気分は最高潮です。


 初めて、見る鶏和え酢とりあえずは、夏にぴったりの料理。

 細かく裂いた茹で鶏に、細切りの人参や玉ねぎ、キュウリ、みずみずしい。

 美味しい鰹出汁と酢と醤油。

 いやあもう、夏の塩分が抜けきった身体に染み渡る優しいお味と、爽やかさ。

 鶏肉の淡泊な身にしみしみで、じゅわりと広がるのがたまらない。歯ごたえも野菜のシャキシャキ感が楽しく、食べているだけで健康になれそうな気がするほど。


 付け合わせの冷や奴、ナスの味噌汁もすべて美味しく、ご飯をおかわりしてしまったほどです。


 友人も同じく、「酢の物得意じゃ無いが、これは本当に美味い」と米の一粒の残さず平らげてました。


 その後のフェスに向かう道中でも、「鶏和え酢とりあえず定食、最高」と語り合いました。

 まあ、友人からは「お前はまず、とりあえず定職・・だろ」と言われてしまいましたが。トホホ。


 さて、そんなこんなでライブフェス会場に着き、様々なアーティストさんのライブで盛り上がりつつも、大トリであるソリャナイダロさんの出番を待っていました。

 最後のセットチェンジ、金色に輝くDJブースが出てきた時は心臓がバクバクになりました。

 そんな時、友人のスマートフォンに連絡がありました。

 会社用のらしく、マナーモードにしておいたそうで、友人は小さくなりながらスマートフォンのメッセージを確認してました。


 すると、彼の顔がみるみる青褪めていきました。

「やばい、ちょっと電話してくる」

 友人はそれだけ言い残し、飛び出して行ってしまい、一人ぼっちに。しかも、全席スタンディングだったため、友人の穴はすぐに埋められてしまいました。


 その後、すぐにソリャナイダロさんの出番が始まってしまい、薄情な私はすっかり友達のことは忘れ、ライブを楽しんでしまいました。


 さて、その後ですが、友人はどうやら会場外で怪我をしてしまったよう。

 理由はなんと、職場である学校内での不倫がバレてしまい、処分についての電話に焦ってしまったせいで、階段をから転がり落ちてしまったから。

 後日、会った友人曰く「トリ会えず停職」とのこと。

 二人で今は、「とりあえず、定職」を合言葉に就活をしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鶏和え酢定食 木曜日御前 @narehatedeath888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ